Phalaenopsis braceana

1.生息分布

中国(雲南)
Bhutan

2.生息環境

 海抜1,100 - 1,700m。疎林地帯の木あるいは渓谷の苔の付いた岩に多くが着生する。

3.形状

 本種、Phal. hainanensis、Phal. honghenensisは情報が少なく、決定的な分類が困難である。中国ではkingidium braceanumと分類された出版物がある。本サイトの情報はこれまでの本種とされる情報を基に推定したものである。

3-1 花


1. 花被片
 花被片は 2 - 3cm。淡い栗色で青リンゴ色の縁取り。花茎に4 - 8輪の花を同時に開花する。冬季に夜間15C程度に2 ‐ 3か月置かないと容易に花茎は発生しない。花茎発生から2か月程で開花する。 開花期は雲南省で5月。花はPhal. floresensisを弱くしたような匂いがする。これまでの文献等において匂いの有無が取り上げられていないため本種固有のものかどうかは不明。


2. リップおよびカルス
 本種、Phal. hainanensis, Phal. honghenensisは花被片外形からは色が個体差の範囲で多様であり同定が難しい。本種のリップは多くの点でPhal. wilsoniiに類似するが、中央弁を正面から見ると基部から中央にかけて、外縁が円形に広がる(下写真左を参照)。また右端写真に見られるリップ基部に黄緑色の距(spur)が他の種よりも突き出ている特徴がある。カルスは2組でanteriorおよびposteriorともに先端分岐(歯状突起)型であるが、posteriorカルスの2分岐先端(写真中央)は外側に反っている。

Lip and Callus

3-2 さく果

 さく果は淡い緑褐色で細長い。花被片は1ヵ月ほどで枯れ縮む。写真右は交配後約3週間後のさく果で、さく果形成が早い。他種同様に4ヵ月経過後にとり撒きを行う。 無菌培養では発芽難易性は低く、交配は容易な方である。

Seed Capsule

3-3 変種および地域変異

 花被片の色は個体差が見られるが変種は知られていない。

3-4 葉

 葉数は4 - 5枚以内で、葉長10cm以下、幅4 - 4.5cm。Phal. wilsoniiの長楕円に比べ楕円から卵形楕円形で、葉肉も厚い。またPhal. wilsoniiと比較して葉は濃緑色あるいは緑褐色である。 冬季および開花期は野生では落葉するが、温室では寒期や乾燥がないため多くは落葉しない。

Leaves

 Aphyllae亜属(wilsonii, minusなど)や、 Parishianae亜属(lobbii, gibbosaなど)は自然環境において、冬季や乾季には落葉する種であり、人工的な栽培においても稀に全ての葉が落葉することがある。根が固ければ生きており、春には再び葉が発生する。温室栽培では落葉の頻度は少ないものの、時として1年近く根だけの状態(筆者温室での最長記録は1.5年)を続ける場合も見られる。固い緑色の根が少しでも残っていれば、通常の潅水をする。また根に十分な照明を与えないと、いつまでも葉は発生しない。このためこれらの種をミズゴケのように根を覆い隠してしまう植え込み方法は適さない。

3-5 花茎

 花茎は4 - 8.5cm長。細いが極めて固い。

3-6 根

 葉の大きさに対して長く多数の根を伸長する。根は支持体に活着すると扁平で皺があり銀泥色。緑色を含むものもある。本種は根が隠れて照明が当たらなくなるミズゴケと素焼き鉢やバスケット植えでは栽培が困難である。

Roots


4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ      
    ミズゴケ 半透明プラスチック -   栽培難易度参照
    ミズゴケ 素焼き ×    

  2. 栽培難易度
    容易
    2013年度からフラスコ苗がマーケットに登場しており、小苗から開花株になるまでの期間は、根が乾燥を嫌うため、小さな半透明プラスチック鉢にミズゴケが適する。一方、BSサイズの現地での栽培は、(半)透明プラスチックポットと大粒バークでの植え付けが良くみられる。Aphyllae亜属は支持体に活着した根の表裏は生理機能が異なり、支持体に活着した面は水分や栄養分の吸収、一方空気に触れている表側は固い皺のある緑色で、葉緑体をもち光合成をしていると考えられる。このためポットに植え付ける場合は光を通す半透明プラスチックが有効となる。またポットでの深植えは常に根がバーク内に埋もれたり、水分過多になって、光が当たらない問題があり、株元(根元)を2-3㎝バーク面トップから浮かした植え込みが良いとされる。
    コルクやヘゴ棒も適するがこの場合、根をミズゴケで覆うのではなく、ミズゴケを厚く敷き、その上から細いワイヤーで根を抑えて植えつける。

  3. 温度照明
    胡蝶蘭のなかでは温度範囲は広く、照明は普通。夏季に野外に出す場合は葉焼けに注意する。

  4. 開花
    夜間18 - 20C、昼間25C前後が1ヵ月以上続くと花茎が発生するが、夜間20C以上の高温条件では通常花茎は発生しない。室内あるいは温室での栽培で、この条件が得られるのは晩秋か早春となる。よって開花は一般に冬あるいは遅い株で5 - 6月となる。

  5. 施肥
     特記すべき事項はない。栽培は容易な種であるが、多数の花を咲かせるには適切な肥培と温度・湿度管理が必要。

  6. 病害虫
    病害虫には強い種であるが、湿度が高く通風が悪いと、葉に細菌性褐斑病を発生することがある。
 

5.特記事項

 葉形態から同亜属の本種を判別することは困難であるが、他の同一亜属と異なり葉に丸みがあり。 肉厚で照りがある様態が本種固有のものであれば判別は容易ではある。