Phalaenopsis kunstleri

1.生息分布

マレーシヤ(Johore州、Perak州、Borneo Sabah)
ミャンマー

2.生息環境

  海抜300-1,800m。温度22‐32C、湿度75‐82%。

3.形状

3-1 花


1. 花被片
 花被片は黄色をベースに花被片中央から基部寄りに栗色の大きな斑点が入る。花径3-3.5cm。花被片の外縁はPhal. fuscata程ではないが、僅かに後方に反る。本種はPhal. fuscataPhal. viridisと花被片の模様は類似し、特にPhal. fuscataとは花被片形状iや色合いからは区別できない。このためPhal. fuscataとは別種ではなく変種とする説もある。その両者の同定方法としてE.A.Christenson氏著書Phalaenopsis A Monographでは、カルス形状、蕊柱形状の違いを挙げている。しかしこれまでの実態からは蕊柱の相違は曖昧で、当サイトしてはカルス形状から分類することにした。

 花は細く長い花茎を伸ばし花茎あたり先端に3‐4輪が開花する。一般的にPhal. viridisのような多輪花ではない。開花期は早春から初夏。夜に微香を放つ数少ない種である。花名は収集家H.H.Kunstlerの名前に由来。

Flower

 下写真は左からPhal. fuscataPhal. kunstleriおよびPhal. viridisをそれぞれ示す。花被片の花柄や形状はそれぞれが個体差の範囲内に含まれる。Phal. viridisは緑味の強い黄緑色ベースの花被片に白いリップ色であることから他と区別ができるが、Phal. fuscataPhal. kunstleriとは、Phal. fuscataの花被片が中央写真のドーサルセパルに見られるように、後方へ大きく沿っているものの、反りの程度にも個体差が見られ視覚的には困難な株も多い。

Phal. kunstleri
Phal. fuscata
Phal. viridis

2. リップおよびカルス
 下写真左と中央は本種、右はPhal. fuscataのカルスを示す。カルス画像はいずれもリップ側弁を切除している。リップ中央弁はスプーン状の凹面で黄味のあるクリーム色がベースで、Phal. viridisの白色と異なる。基部から左右に2本づつの茶色のラインが入る。カルスは2組からなり、中央弁に伸びたカルスがanteriorおよび後側がposteriorカルスで、いずれも先端2分岐の歯状突起である。本種がPhal. fuscataと異なる点は、posteriorカルスが中央弁の基部(中央および右写真のカットされた上部)から長く伸びていることと(Phal. fuscataは短い)、本種のposteriorカルス先端の2分岐突起がハの字形に開いているのに対し、Phal. fuscataの突起先端はカイザー髭のように外側に大きく曲がっている点である。

Lip and Callus
Phal. fuscata callus

3-2 さく果

 さく果の外形は6筋の縦皺をもつ緑色。Phal. fuscataに類似する。右写真は播種から約1年後のフラスコ苗。

Seed Capsule
Flask Seedling

3-3 変種および地域変異

 特に知られていない。

3-4 葉

 葉は通常、葉長20cm、幅6.0-6.5cm。長楕円形で厚く4枚程度で多くはつけない。乾燥には強い種と思われる。写真の2株は野生種で病痕や虫食い痕が見られた。左写真は実生でも見られる一般的なサイズである。右写真はBorneo Sabah野生株で葉サイズ42cm x 13cmの巨大なもの。葉は下垂するため、バスケット斜め吊りか、コルクやヘゴ板への取り付けとなる。

Leaves (野生種)

3-5 花茎

 花茎は30-40cmと長く上方に伸長し、先に2-3の花をつける。Top写真の花茎は20cm程度で短いが若い株のためと思われる。花が終わっても花茎は枯れず、翌年再び先端に花芽をつける。

3-6 根

 縦皺の入った銀白色でPhal. violaceaPhal. tetraspisに比べてやや細い。長く伸長する。それほど活発な根張りは見られない。ミズゴケやミックスコンポストで栽培したが、これらのコンポストでは成長が悪い経験をもつ。コルクやヘゴ板つけにしてからは問題がない。

Roots

4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    コルク、ヘゴ、バスケット   容易  
    ミズゴケ 素焼き    

  2. 栽培難易度
    容易。コルクやヘゴ板植付けでは、かん水を頻繁に行う必要がある。

  3. 温度照明
    中輝度

  4. 開花
    外形からはPhal. fuscataとの区別は困難。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    病害虫には強い種である。

5.特記事項

  Phal. fuscataと混同して流通していると思われる。Phal. kunstleriの生息数は少ないと言われる。マレーシアのコレクターによれば、Phal. fuscataPhal. kunstleriは同じ地域に分布しており、区別が極めて難しいとのこと。この結果と考えられる両者の中間体のような様態の株が見られる。また本種はE.A. Christenson著書にはBorneo島の生息が記載されていないが、3-4項葉の右写真の株はSabah州での採取とのことである。