Phalaenopsis pulchra

1.生息分布

フィリピン(Luzon, Leyte島)

2.生息環境

 生息域を海抜100 - 650m。湿度85 - 90%。

3.形状

3-1 花

1. 花被片

 開花期は晩春から夏。香りは無い。本種は色が似ていることからPhal. speciosaと誤ってラべリングされてきた過去があると言われる。野生のPhal. speciosaは希少種であり目にする機会が少ないことも背景にあったのかも知れない。Phal. speciosaとは生息域が全く異なる。また本種はPhal. lueddemannianaの変種と過って分類されたことがあるとも云われる。

Flowers

2. リップおよびカルス
 リップ側弁は左写真に示すように先端が黄色。中央弁は花被片同様に紫色である。中央弁の竜骨突起は基部から1/3で中央弁中央部はノゴギリ状波形となる。先端は丸く膨らみがある。カルスは3組でanteriorおよびcentralカルスは先端2分岐の歯状突起。posteriorカルスは複数の小(腺状)突起からなる。右写真は側弁の片側を外している。

Lip and Callus

3-2 さく果

 さく果は深い6筋の溝を持ち緑色。花被片は硬く緑化し枯れ落ちることはない。4か月程度で播種ができる。

Seed Capsule

3-3 変種および地域変異

1 Phalaenopsis pulchra f. alba
 花被片はPhal. micholitziiに類似しているが、Phal. micholitziiには写真右が示すposteriorカルスの複数の腺状突起がないことから同定が可能である。

Phal. pulchra v. alba

Phalaenopsis pulchra semi-coelurea form
 花被片およびリップが一般種は青紫から赤紫であるが、特に青色が強いフォーム。リップ側弁に黄味が残っていることからセミ・セルレアとした。

Phal. pulchra semi-coelurea form

3-4 葉

 葉の長さ20cm、幅7.5 - 8.0cm。蝋質でやや厚みがある鮮緑色。立ち性であるため、ポット植えが可能である。下写真はヘゴ板に取付た50株程のクラスター株の一部。高芽が高頻度で発生し、3-4年でクラスター化する。

Leaves (Leyte)

3-5 花茎

 胡蝶蘭のなかでPhal. equestrisと並んで最も高芽を発生させる性質がある。写真左は高芽を付けた花茎を示す。花茎の長さは120cm。花を付けるか高芽が発生するかは花茎の長さが異なることが多く、通常、蕾を付ける花茎はやや短く、長くなると高芽の発生率が高まる。この花芽の長さは環境(栽培)温度に依存すると言われ、高温(夜間最低温度が20℃以上)で高芽となりやすい。Phal. equestrisは本種と対称に短い花茎では高芽が、一方、長いと花を付ける傾向が見られる


Inflorescences
Keikis

3-6 根

 根はPhal. cornu-cervi系と類似して、銀白色で太く滑らかな表皮からなる円筒形、根冠は新鮮な黄緑色をしている。この種の形状をもつ根はPhal. schillierianaPhal. celebensisの、支持材への活着と伴に皺のある根となる性質とは異なり、活発に伸長するもののコルクやヘゴ板などとの活着は遅く、空中湿度が十分でない場合はヘゴチップやクリプトモスを用いた鉢植えが適し、鉢ごと吊るしての栽培が良い。

4.育成

  1. コンポスト

    コンポスト 適応性 管理難度 備考(注意事項)
    バスケット   容易  
    コルク、ヘゴ板      
    ヘゴチップ、クリプトモス プラスチック/素焼き 容易 鉢は吊るす。

  2. 栽培難易度
    容易。胡蝶蘭原種としては珍しい立ち性であり、鉢植えが可能。但し花茎が半立ち性のためベンチなど平面台に置くことはできない。

  3. 温度照明
    中-低輝度が好ましい。

  4. 開花
    本サイトでの温室では毎年夏季に花を付け気温は夜間と日中ではそれぞれ23-25℃と32℃となる。この高温環境ためか全体として高芽発生が多く、1株当たりの開花数は1-2輪と少ない。花を得るには前記よりも5℃ほど低い温度が適するようである。

  5. 施肥
    特記すべき事項はない。

  6. 病害虫
    病害虫には強い種である。
 

5.特記事項

 USAでPhal. lueddemanniana ‘Red Rob in’と呼ばれた種は本種である。