12月
デンドロビウムに見る同定の難しさ 現在、これまでに栽培した700種を超える種の改版ページを制作しており、その中でバルボフィラム、Vanda/エリデス及びセロジネについては逐次、追加・修正は続けているものの一段落し、現在は300種ほどのデンドロビウムに取り組んでいます。デンドロビウムは、これまでの12年間に集積した写真からの選定が今年2月に終了しており最終確認作業となります。こうした中で種名不詳種だけでなく、似ているものの何か違うと云った画像にしばしば遭遇し、こうした事態となる度に多くの時間が割かれることになります。例えば、良く知られたDen. anosmumでは上段左右の写真に見られる似て非なるフォームがあります。このフォームはvar. huttoniiあるいはセミアルバに酷似し、通常その花は写真中央に該当します。しかし写真左右のフォームは、花サイズはDen. anosmumと同じであるものの、リップ中央弁先端部の毛状突起が長く、密で異なります。この種はマルク諸島からの入荷とされます。こうした似て非なる種の多くはタイや台湾からの株にしばしば見られる交配種(例えばDen. parishiiとの)かも知れませんが、生息地が正しいとすれば変種の可能性もあります。取り敢えず左画像のマークアップ文字”aff. anosmum semi_alba”としました。aff (affinity)は類似種を意味しますが、当サイトでは同定不明な種は、種名の”変種”あるいは”フォーム”の可能性のある場合を含めて使用しています。また写真下段左は数年前にも取り上げましたが、Den. anosmum var. deareiとして知られたアルバフォームです。しかし右画像から分かるようにペタルの長さは6㎝であり、開花時の左右の間隔はリップを挟んで13㎝となり、一般種の最大長7.5㎝とは大きく異なります。Den. anosmumは10㎝超えのタイプが知られ、このフォームはDen. superbum (後述:var. giganteum)とする別種名があります。しかし栽培条件で大きく異なる花サイズのみで固有の種名とするのは栽培経験から疑問があり、慣例からすればDen. superbum var. albaとするところ、当サイトでは単にalbaグループに入れています。種分け作業は楽しい一方で、僅か700種ほどの種を纏めるだけとは云え他属を含め、こうした問題で右往左往しています。
Bulbophyllum ovalifolium近縁種の開花 4年前にスマトラ島北部アチェ州から、Bulb. stormiiに似た種とのサプライヤー情報で入荷した株が開花しました。花の形状はBulb. stormiiとは全く異なり、キャメロンハイランドで入手し現在栽培中のBulb. ovalifoliumに似ていますが、下写真が示すように、セパルの表面のテキスチャーがovalifoliumとは異なり、またリップ中央弁はovalifoliumは全面に棘状の凹凸があるのに対し、本種は滑らかです。これらの相違点から別種と判断します。そこで類似形状の多いMacrocaulia節種をネットで検索しましたが、現時点では該当する種が見当たりません。未登録種の可能性もあります。取り敢えずBulbopyllum sp aff. ovalifoliumとして先月改版した当サイトのBulbophyllumページに加えました。詳細画像は写真下の青色種名をクリックすると見られます。
セロジネの改版ページ更新 セロジネ42種のページを更新しました。ぺーージトップのセロジネ・メニューからアクセスできます。改版するにあたり最終確認のため,、それぞれの種毎に情報を調べていると、その種が気になって温室を見て回り、元気な株はよいものの、3年以上も植替えをしていない株やベンチの片隅に長く置かれた株に気付き、つい植替え作業となりページ制作が中断して中々前に進みません。すでにこれまで栽培したほぼ全ての属種の写真整理は1年程かけて終了しており、掲載の最終チェックのみですが、こうした状況がまだしばらく続きます。セロジネは花のみの画像や、寸法表示画像が未掲載の種が多数ありますが、今後の開花に合わせ順次画像を追加する予定です。また現在、14種の未開花種名不詳種を栽培しており、これらも開花確認後に追加更新します。コロナが落着い後は、胡蝶蘭原種と共にセロジネは今後プライオリティーを上げて収集する計画で、特にセロジネは新規に50種を目標とし海外ラン園に打診する予定です。このため今回セロジネ改版ページは他属とは独立したページにしました。 一方で、すでに改版したバルボフィラムなどでも、新たに開花した種がある毎に写真の追加や更新を現在続けています。次はいよいよ300種を超えるデンドロビウムの改版作業に入りますが、1か月程はかかるのではと考えています。Vandaのリサイクル木製バスケットを利用した植替え Vandaは常時、高湿度の環境が必要であることから栽培には長年手を焼いています。フィリピンバタンガスやミンダナオ島ダバオを訪れ、数えきれないほどのバンダが栽培されている環境で、長く垂れた根に触れたときのしっとり感は忘れられません。国内においては散水等により数時間であれば兎も角、Vanda専用温室でもない限り1年を通し、現地ラン園同等の環境を維持することは困難です。これまでプラスチックや木製のバスケットを主に、根の一部を炭化コルクに接触させる植付けや、農業用不織布で根周りを覆ったりと様々な試みを行ってきましたが、根元だけを支える小さなバスケットや平面的なコルクでは、いずれも根の活着面積が不足し、3年以上も経つころには現状維持が精々で、次第に株が痩せてきます。そうした中で数年前に、少数ですが木製バスケットの底板を外し、2-3個のバスケットを連結して深さのあるバスケットを製作し、これに植付けた株が5株ほどあり、現在これらが最も成長が良く、葉は厚味があり葉間隔も密で、主茎が2m程に成長しています。株を調べると、数本の太い根から植え付け後に発生した側根がバスケットの木片に多数活着し、その数が多い株ほど成長が活発で、これはバスケットを縦長にすることで活着面が増した結果と思われます。湿度が低い環境で、垂れ下がったままの根から空中に伸びた側根の多くは、やがて先端部が枯れ伸長が止り、葉が痩せ始めます。根がびしょ濡れと乾燥状態を繰り返すことのない、しかし気相率は高いまま根は常にしっとり感を保ち得る方法はないかと、これまで考えてきました。その一方で、このところ使用済みの木製バスケットをウイルス感染防止のため次亜塩素酸ナトリウム(ピューラックスなど)で殺菌した後にリサイクルをしていることもあり、それではと縦長に連結した複数のバスケットをVandaに多用することにしました。段数は株サイズや種に依りますが大中小サイズそれぞれで2-4段(20㎝から50㎝程の深さ)としています。下写真左がそれらに植付けられた一部で、写真はVanda dearei、foetida、furva_albaなどです。Vanda sanderianaは20株程大型バスケット3段構成にすでに植付済みです。バスケット内部の植込み材はクリプトモスLサイズ 80%とミズゴケ20%のミックスです。今後はVanda lombokensisやluzonicaなどが続きます。右写真は殺菌処理済の中と大サイズのリサイクル・バスケットで薬品の漂白作用で木片が白く変色しています。
ところで、Vandaの生息国での栽培実態はどうか?Vanda sanderianaを例に、フィリピン・ミンダナオ島ダバオ市とルソン島での画像を左と中央に示します。左はダバオ市のフィリピンでも最も大きなラン園の一つ Puenespina Orchids & Tropical Plants, Incの園内の大きな枯れ木に活着させたVanda sanderianaで、中央はルソン島在住の趣味家が栽培する同種です。これらから分かることは、自然環境においてVandaの根は垂れ下がると云うよりは根の多くは太い木に活着し成長しています。一方右写真はルソン島バタンガスで販売用Vandaを数千株栽培していたラン園Evergreenで、写真に並ぶVandaはsanderianaの原種とハイブリッド種です。このラン園では根の全てが揃って、垂直に垂れ下がっており、それぞれの株はほぼ同じ形状で、出荷に適した栽培となっています。株の根元には小さなプラスチックバスケットが付けられ、このバスケットは固形肥料を置くためのもので、根を支えたり保水目的ではありません。こうした風景だけを見るとVanda sanderianaは日本国内でも、散水さえ十分に行えば、殆どの根を空中に晒しても良いのかと思ってしまいますが、そのためには現地の栽培環境を知る必要があります。 ダバオ及びバタンガスは1年の内、7か月間の相対湿度は80%以上、残りの5ヵ月間(12月から3月)は70%以上と通年で極めて高く、夜間気温は周年熱帯夜です。その高温高湿度故に、12-3月を除く期間は旅行(者)には適さないと云われる程の地域です。実際の栽培場所は郊外の木の多い場所と考えれば1年を通し90%前後の湿度と思われます。この高湿環境であっても、バタンガス・ラン園では定時には散水が行われています。結論から言えば、国内に於いて右写真のように根を空中に垂らし成長をさせるには、手段は兎も角、現地と同じような高温高湿環境が必要となります。しかし多くはそのような環境の実現は困難で、湿度の低下は避けられません。であれば写真左と中央に見られるように根は何らかの支持材に活着させ、散水(写真左と中央では自然雨)の際に支持材に吸収保水された水分の放出によって根周りの湿度を長時間維持することが必要となります。これが、前記した成長の良い株は、太い根から発生した側根の木製バスケット材への活着数が多いことの背景につながります。 根周りの湿度を高めるのであればプラスチックポットに植付ければ良いとも思います。プラスチックポットで十分な根周りの湿度と高い気相率と云った相反する条件が得られればその通りです。問題は植込み材は経年劣化により気相率が変動し、またプラスチックポット内は空気が停滞します。中でも大型の花をもつVandaの根は長くて太く、1年程で根詰まりのリスクがあり、頻繁な植替えが求められます。そこでVanda sanderianaなど高い気相率が必要な種に於いては、茎から出た太い根はバスケットの内部を通り、やがて突き抜け垂れることを可とし、一方でその伸長の過程で発生する基部周辺の側根の多くをバスケット内部の木片に活着させることで、より安定した水分を得ることも一案かと、深さのある木製バスケットで、今後の成長度合いを調べることにした訳です。
Bulbophyllum fritillariflorumの花散り際に見る色変化 バルボフィラムやデンドロビウムなど開花時から散るまでの間に花色が変化する種は多数見られます。開花時に薄緑色が淡黄色に、白色がベビーピンクに、などです。先月18日に開花したBulb. fritillariflorumの大きな花が、散る間際になり突然色変わりしました。その変化の速さと色差に驚き下写真に収めました。左は通常時の花色で、中央及び右が本日(9日)の色です。1両日後には落花すると思います。散り際の美しさとは、しばしば桜の花びらが空中に舞う姿を形容しますが、これ程大きな花が縮れることなく形をそのままに燃えるような赤い色になるとは、桜とはまた違った散り際の美しさを感じます。
直近1週間での開花種 現在開花中の11種を撮影しました。今年は珍しくPlatycaulon節のDen. lamellatum. treubiiおよびplatycaulonの3種が揃って開花しています。Den. papilioの開花は通常春期で、この時期は季節外れとなります。写真の花サイズは8㎝です。Coel usitanaは通年で開花する種ですが栽培環境(主に気温)により、リップの色に若干変化が見られます。画像下の青い種名のクリックで詳細画像にリンクします。
AeridesとVandaの改版ページを更新 本日(1日)AeridesとVandaのページを改版しました。サイトのトップメニューにある「エリデス/バンダ原種」からアクセスすることが出来ます。先月はバルボフィラムを更新しましたが、今月10日頃にはセロジネ、その後にデンドロビウムなどを更新する予定です。前月へ |
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