5月
現在開花中の18種
画像下青色の種名のクリックで詳細情報が得られます。最上段左のBulbophyllum polyflorumは、これまでで最も多い23輪の開花となりました。J. Cootes著Philippine Native Orchid Speciesでは、本種は生息地がルソン島Nueva Vizcayaとされるものの標高は不明とのことです。これまでの栽培で高温環境では弱体化する傾向が見られ、3年前から中温室に移動した結果、安定し新芽も得ました。この様態から本種の生息域は800m - 1,500m程と推測しています。これは最上段右画像のBulbophyllum facetumも、標高1,200mの生息の中温タイプのため中温湿にての栽培です。Dendrobium bullenianumのセパル・ペタルは通常、淡いオレンジ色ですが、下画像の花はレモン色でリップを含め赤いラインが薄く、aureaタイプに近い色合いのため撮影しました。またDendrobium furcatumは、左のペタルに、その後方にある葉が透けて見える珍しいショットと思います。
Draculaは現在74種を栽培、通年で連日5種以上が開花しており、花の無い時期はありません。5月はクール環境で10種程開花していますが、6種を選んで撮影してみました。2020年時点で知られてるDracula属は135種で、多くが1,500m - 2,300mの生息とのことです。当サイトはその半数程を栽培していることになります。胡蝶蘭からVandaまで、それぞれのページを制作してきましたが、凡そ7年間でDracula画像も多数となり、専用ページにして纏めたいのですが、中々その余裕がありません。
深刻なミズゴケ不足
ラン栽培者はすでにご存知と思いますが、栽培に不可欠で最も使用頻度の高い植込み材であるミズゴケの入手難が続いています。当サイトでも昨年12月に注文・予約したニュージーランド産ミズゴケが半年後にもなる今月5月になっても入荷の目途が立っておらず、資材業者の話ではニュージーランドからは今年1月に1回入荷が在ったきりでその後は途絶えており、昨年9月の予約者のミズゴケですら今だ納品できていないとのことです。ネットには品質2Aレベルの小さなパッケージが見られますが、価格はコロナ前の倍以上となっています。当サイトで使用するミズゴケは3-4Aレベルのニュジーラント産で、南米産や2Aレベルは繊維が短く保湿維持性が低いため使用していません。注文して入手するまで半年以上、1年近くもかかる納期では、植物とは云え生き物に使用する商品としての体を成していません。
応急処置としてミズゴケに取って代わる資材はないかと考えるのですが、たとえばクリプトモスは気相(空気の占める)率が高くなる植込み材で、特に国内の湿度の低い環境での単体使用は、高湿度化が可能な温室栽培を除き困難で、それでもミズゴケとのミックスが不可欠です。一つの方法は根元に一握りのミズゴケを置き(根の間に挟み)、クリプトモスで根全体を覆って、これを素焼き鉢ではなくプラスチック鉢に植付けることで、水分の蒸散を押さえ根周りの湿度を保つと共にミズゴケの使用量を減らすことができます。しかし、これまでミズゴケ100%近くで栽培していた栽培条件とは大きく異なることから、特に使用する粒子(植込み材のサイズ)と根周りの乾湿変化に適応した適切なかん水量を見極めなければなりません。
一方、吊り下げ栽培ではミズゴケの使用が不可欠です。フィリピンでは従来からミズゴケは輸入品のため高額で、殆どのラン園は使用しておらず、ポットでの植込み材はヤシ繊維とレンガの欠片ミックスが多く、一方、ポット植えに適さない、葉や花茎が長く下垂する種に対しては保水性の高いヘゴ板に株を乗せ、ヘゴチップやヤシ繊維で根周りを厚く覆い、これに鉢底ネットあるいは幅の広いビニールテープ等で押さえ吊り下げています。フィリピンのラン園のある地域では年間の大半が昼夜に渡り高温多湿であり、またヘゴ板は30x20㎝サイズが50円程度で日本の1/30の価格のため出来ることで、国内では通風も必要なランにとって、チップや繊維の植込み材では半日で乾燥してしまいます。一つの方法は、前記したクリプトモスミックスで根を覆い、これを親水性不織布あるいはヤシ繊維マットで筒状に包む方法が考えられます。見た目は良くないと思われますが、コストが現状のミズゴケ100%使用よりは安価であり、ミズゴケの入手可能な日までの応急処置と考えれば、植替え期が迫り古いミズゴケのまま栽培を続けることで生じる作落ちを避ける方法としては有効です。しかしクリプトモスも価格が上昇しており、こちらも入手難になるかも知れません。
当サイトでベンチの上に敷いた人工芝にVandaの長く垂れた根が潜り込み活着しているのを見ていると、ミズゴケはヘゴに続いてやがてレッドブック種になるかも知れず、反面、園芸資材として世界的なマーケットが有ることから国内の繊維会社がミズゴケに代わる人工ミズゴケのような商品を開発できればと期待しています。試作品ができれば、当サイトでは数百種のランを栽培していることもあり、商品の評価テストに協力できるのですが。
下画像は現在当サイトで使用中の資材で26日の撮影です。左は奥から3㎏3Aミズゴケ、10mx1mヤシ繊維マット2巻き、炭化コルク10枚、70㎝x15㎝x2.5cmヘゴ板15枚です。ヤシ繊維マットは炭化コルクや筒型吊り下げに使用しています。一時販売が休止されていましたが再開したとのことで共和開発から入手しました、希少種の大型株専用の長いヘゴ板また右画像のクリプトモスは共に所沢植木鉢センターからです。こちらも現在は品薄のようです。
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下画像上段左と中央は前記した筒型取付で、植付けから1年以上が経過した不織布巻きと、5か月程経過のヤシ繊維マット巻きで、中身は80%クリプトモスと20%ミズゴケのミックスです。その他の画像は現在(27日)の温室風景の一部で4棟の内、クール/中温室を除く3棟分です。それぞれ並んだ列の裏側にもほぼ同数の株が吊り下げられており、凡そ全棟で6,000株を超え、これらを3-4年毎に植替えします。結果、膨大な植込み材を消費します。その中心となるミズゴケが今日の状況にあっては、それに代わり得る新しい素材(現在Soft Fernなどをテスト中)や、新たな栽培法を見出す必要があります。
直近6日間(19 - 24日)の開花種21種
Coel. usitanaはリップがほぼ黒色に近いカラーフォームで、こうした色合いは20株以上栽培している中に2株あり、その一つです。またCoel. asperataは今月9日掲載とは異なる株です。新種のDen. elineaeは美しい花ですが、開花は1日のみの短命花です。午前中に全開し昼過ぎ頃から閉じ始め翌日には落花するため、正確に言えば半日花であり撮影チャンスは数時間しかありません。それぞれの種の詳細画像は青色の種名のクリックで表示されます。
著作物やジャーナル等に記載される情報の見方について
趣味家にとって未開花で入手した株が種名通りであるか否かは、自らの栽培により花を得て確認することになりますが、そうした中で明らかに形状が異なる、いわゆるミスラベルはサプライヤーの取扱いミスによるもので交換等が行われるものの、似て非なる形状や花色の違いなどもあり、果たして個体差なのか別種なのか戸惑うこともあります。この場合、ネットや本等で調べるのですが特に花色は同一種の中でも栽培環境、特に輝度等に大きく影響を受ける種も少なくありません。一方、形状、例えば花、葉、バルブなどのサイズは成長過程、地域差、栽培技術等に大きく依存します。こうした中で栽培環境や個体差あるいは地域差に影響を受けにくい部位とされるのはリップ形状(カルス、中央弁、側弁など)です。では似た者同士でリップ形状を比較すれば良いかと云えば、対象となる種それぞれの、それら詳細情報を捜し出すことは、現実には極めて困難で、有っても殆どが植物専門用語を含む英文で書かれた資料や、手書きスケッチ図等が多く、目視で容易に違いが判断できるミクロな世界をカラー撮影した画像は殆ど見つけられません。当サイトではこうした実状から可能な限り、それぞれの種にリップ等の詳細画像を記載しているのですが取り扱う全種に用意するのは容易ではありません。
一方で、専門書などに記載された形状に関する情報の中で、最近気が付いたことがあり今回取り上げてみました。それはサイズ値についての表現です。株(バルブや葉など)サイズは、マーケットでは目安としてNBS(Near-Blooming-Size)、BS(Blooming-Size:次の花期に開花予定)、FS(Flowering-size:開花経験あり)などの指標があり、各段階での株サイズはそれぞれ異なります。一方、著書やジャーナルにおいて種に記載されるサイズ表記には、大きくともこれだけの長さ(up to xxxcm longとか、to xxxcm long)などが見られます。
下画像はBulbophyllum trigonosepalumで、上段左は花、右は当サイトで栽培中の同種を3株それぞれ並べて撮影したものです。J. Cootes著Philippine Native Orchid Speciesによると本種の葉サイズは最大(to xxx long)で長さ24㎝、またバルブサイズは高さ5㎝、直径3㎝と記載されています。このサイズに相当する株が下画像3株の内の左端となります。下段左画像は3株のバルブを拡大したものです。そこで中央と右端の株のバルブと葉サイズをそれぞれ測定してみました。中央画像でのバルブサイズは高さ6㎝、直径4㎝で、最大値とされるサイスよりもさらに1㎝大きくなっています。また葉長は右端の株の葉で34㎝となります。つまり著書に書かれた本種のバルブおよび葉の最大長をかなり超えていることになります。現在Bulb. trigonosepalumを20株ほど5年以上栽培していますが、その半数程が著書のサイズを超えています。こうした状況からは、著書のサイズ記載が最大値と記載されている以上、誤りとなってしまいます。その背景は著書に記載する時点で著者が収集したロット株内の最大長がそうであったと考えられます。であれば最大と表記しなければ良いのではと思いますが、では株それぞれの部位のサイズ値は何を基準とすべきかが問われます。栽培者側からは、サイズ記載が無いのも困ります。結論からすれば、”to xxxcm longやup to xxxcm long”と記載しているものの、maxとは云っていないのであるから、この程度までは大きくなるとの目安表記と考えれば良いのではと思います。実体サイズが書籍等の既存情報と異なるが故に、種名に添名を付けたり、別種あるいは変種とすることは応分の相違(4倍体とか2倍以上とか)が明白で、且つそのサイズが環境に依存することなく再現性のある場合を除き、避けるべきとも考えます。
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Bulbophyllum trigonosepalum |
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Enlarged view of pseudobulbs |
Bulb-size: 6cm x 4cm |
leaf-length: 34cm |
Bulbophyllum recurvilabre
先月の歳月記に’Bulbophyllum trigonosepalum近縁種’との題で、始めて見る花の開花があり種名不詳種として報告しました。ところがorchidspecies.comのBulb. recurvilabreのページに同種と思われる画像があり、その種の形状は当サイトやJ. Cootes著Philippine Native Orchid Species,p60、またネット上の多くのBulb. recurvilabre画像とも異なるため、当サイトのBulb. recurvilabreの開花を待ち、両者を改めて比較する旨を述べました。20日現在、4株で開花が始まったため再度、これらの相違点を取り上げることにしました。なお先月の種名不詳種は当サイトのトップページのバルボフィラムメニューにsp31としてサムネール画像に追加し、また当サイトのBulb. recurvilabreにも新たな画像を更新しました。
まずorchidspecies.com掲載の種は、Flower Closeupページでの画像様態から、花茎当たり一輪毎に開花し、その花が終わると次の花が咲くと云った多くのバルボフィラムに見られる特性と思われます。sp31も同様です。一方、当サイトのBulb. recurvilabreではバルブに近い位置にある最初の花が開花した後、ほぼ2日間隔で次の花が開花し、合わせて4日程で3輪が同時開花します。一つの花茎に3輪以上が同時開花する様態は稀で、これまでに数例のみです。株が若いあるいはコンディションが良くない株では1-2輪までの開花も見られます。花茎のバルブ基から最初の花柄までの長さは5-10㎝と短く、sp31のような立ち性で30㎝程になる形状とは大きく異なります。
一方、J. Cootes著の中にも疑問点があります。葉は16㎝以下、花茎の長さは葉長と同じかそれ以上(Leaves: up to 16cm long by 2.5cm wide また Inflorescences: equal to or longer than the leaves)と記載されています。では当サイトの株ではと、葉長の画像をBulb. recurvilabreのページに追加しましたが、28㎝長が見られます。葉長の違いは環境や成長に大きく左右されるため、記載時の株サンプルが偶々その長さであったからと思います。しかし花茎の長さが葉長以上とすると16㎝(下画像の株では28㎝)以上となり、余程小さな株に花が咲いたのかと。いずれにしても当サイトとorchidspecies.comでのBulb. recurvilabre画像とは別種であることは明らかで、いずれがBulb. recurvilabreかは種名を最初に命名したL. A. Garay氏の論文を読むことになります。
今回このような問題を取り上げた背景は膨大な種が存在し、似た者同士も多いランの世界では種を解説・議論する場合、2-3枚の写真では難しいことがあり、可能な限りそれぞれの部位についての詳細画像を、栽培者やサプライヤーに提供することも特に同定のための情報として必要と思われるからです。
現在(9日)開花中の14種
連休の先週から、晴天日には温室の中の気温が昼間35℃を超えるため、午前10時から夕方まで70%寒冷紗で温室を覆うことになりました。そうした環境の中でも多数の種に開花が見られ、その中から14種を選び撮影しました。下画像でBulb. graveolensは久々の登場です。またBulb. inunctumはボルネオ島タイプで、同種のフィリピンルソン島タイプとは色が全く異なります。Den. stratiotesは背丈1.5m程の株で花茎が3本発生しており、その一つに13輪が開花していたため撮影しました。蕾の数から株の総開花数は32輪となる予定です。本種の花寿命は1.5ヶ月程と長く栽培が容易なデンドロビウムです。
Cat. mossiaeとStrchl. dalatensisは4年前それぞれエクアドルMundifloraおよび中国四川省ラン園のサンシャインラン展での売残りの引き取り株です。写真のCat. mossiaeはセパル・ペタルが淡いピンク色をした17㎝程のサイズですが、orchidspecies.comで検索したところ匂いがgarlic(ニンニク)と記載されており、カトレアがニンニクの匂いとは何かの間違いではと、改めて実物の匂いを確認しましたが下画像の花は飴玉のような良い香りがします。1株しか栽培していないため果たしてこの香りが一般的かどうかは分かりませんが、ベネズエラの国花とされる花がニンニクの匂いの筈はないのでは?。もし日本の国花である桜がニンニクの匂いがしたらお花見は無理、と云うよりは国花にはならなかったのではと。
Paphiopedilum gigantifolium
一昨年6月に紹介した本種が今年も6輪の花を開花しています。20年前に入手した株で、ランの栽培を始めてから今日までのほぼ同じ歳月を共に過ごしてきました。8株栽培中の内、画像の株を含め4株が開花中で3株はそれぞれ5輪の開花です。他の4株は秋の開花となります。Paph. sanderianum同様に前回の植替えから8年が経っており40株程あるPaph. sanderianumを含め花後には、株分けと一回り大きな鉢にバーク、軽石、麦飯石のミックスで植替えをする予定です。植え替え後には両者を合わせ70株程になりそうです。下画像の撮影は本日(3日)で、右写真はこの株の3つの新しい芽です。
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Paphiopedilum gigantifolium |