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3月
Paphiopedilum lowiiの花サイズ
Paphiopedilum lowiiが開花してから40日以上が経過します。本種の花寿命はどれほどかとネット検索したのですが花寿命について記載された情報が見当たらず、では花サイズはとIOSPEのページにアクセスしたところ、本種は7.5㎝ - 14cmとのことです。そこで現在開花中の本種を今朝(30日)測定したところ、下画像に見られるようにNS(自然体サイズ)15㎝でした。僅かですがIOSPE記載の最大値を超えているのであればと、定規を入れ撮影しました。
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Paphiopedilum lowii Borneo |
Paphiopedilumは1昨年の12月に8年ぶりにgigantifolium15株、sanderianum47株、rothschildianum60株をそれぞれ植替えしました。しかし今だ植替え前の株が55株程残っています。上画像のlowiiもコケに覆われたポットで植替え待ちの株の一つです。今年中には植替えをと考えているところです。
現在(27日)開花中のVanda helvolaとVanda helvola alba
現在、インドネシアSumatra島生息のVanda helvolaの一般種とalbaが同時開花しており撮影しました。下画像右のalbaは花色からはflavaフォームがむしろ妥当ではと思います。alba名は現地の呼称によるものです。ところでIOSPEではVanda helvolaの生息地にフィリピンは記載されていません。しかしJ. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011には、その生息がフィリピンでも最近記録されたとの記載があります。当サイトではフィリピンおよびインドネシアいずれの生息種も2016年頃に入手しており、下画像左の青色種名のリンク先にMindanao島とSumatra島生息両種を掲載しています。
現在(23日)開花中の6種
現在開花中の6種を撮影しました。Dendrobium anosmum(Lindley 1845)の一般フォームは、J. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011によると、ペタル一片の長さは最長(up to)3.5㎝とされ、またIOSPEでは、左右のペタルの端から端までの横幅は5-10㎝との記載が見られます。下画像左のDen. anosmumはペタル一片の大きさは4㎝で、左右ペタル間のスパンは10㎝弱です。一方、anosmumにはsuperbum(Rchb.f 1864)とするシノニム(異名同種)があります。また一般種とは異なる大きな花サイズ由来と思われるanosmum var. giganteum( [Rchb.f] Valmayor & Tiu 1984)名も見られます。
こうした中で、当サイトが大型サイズのanosmumを得たのはフィリピンで、2015-6年頃となります。この頃はフィリピン現地ラン園ではペタルの一片が5㎝以上で、左右ペタルスパンが10㎝を超えるフォームをanosmumのsuperbumタイプと名付けており、anosmum var. giganteumとする種名は現地マーケットにはなく、当時のフィリピンではsuperbumが大型種を意味しました。しかし正しくはanosmum var. giganteumであり、superbumは大型サイズを示す種名ではありません。今日のanosmumにはシノニムであるsuperbum名が多数見られます。属名統合等の変更があった訳でもなく、名称anosmumが記録された20年後に同種にも拘らず何故にsuperbum名が記録されたのか不明です。またanosmum var. giganteumについての種名由来ですが、ペタルサイズが何㎝以上をgiganteumと称するのか、anosmum一般種が10㎝までとすれば、giganteum(巨大)とする変種名からにはそれ以上のサイズであるのは必然で、ペタルサイズは5㎝以上、左右のペタルスパンは12cm以上となります。当サイトではこれまでペタル5㎝以上で左右のペタルスパンが12㎝以上となる種を暫定的に前記の経緯からanosmum var. superbumとしてきましたが現在はDendrobium anosmum var. giganteumに修正しています。
一方、anosmum var. giganteumについてマーケットではDen. tobaense var. giganteumのように、花の寸法を示す実態画像が見当たりません。定規の入った開花中の株全体画像は僅かにあっても、これらに写されている花のサイズが10㎝を超えているようには見えません。また現在anosmumをGoogleでネット検索するとalbaやsemi-albaフォームを含め100枚を超える画像が表示されます。しかし花サイズを示す寸法入り画像はalbaフォームの1点のみで12㎝程です。大きな花が咲く故の変種名であろうvar. giganteumである以上、その特徴を示す花サイズの寸法写真があって然るべきと思いますが。であれば真のvar. giganteumは現在殆どの人が所有していない幻の変種か、極めて希少性が高い種との憶測をしてしまいます。もし12㎝以上のペタルスパンのある株を栽培している趣味家がおられればネットに寸法入りの花姿を掲載してほしいと思います。こうした状況下故に趣味家が花サイズ10㎝以上のanosmumを得たい場合は、superbumとかgiganteum等の名前でサイズを推し量るのではなく、ペタル間のスパンサイズを示す定規の入った花画像を、また実生であれば親株の花サイズを示す写真を販売者に求めることが必須と思います。そうした画像が提示できないのであれば、栽培しても花サイズの保証はないものと考え、入手を控えるべきです。種名の付帯名にvarが付くことは、繰り返しになりますが、そのフォームは遺伝的継承性を持つもので、株や環境等によってフォームが変化するものではなく、また10㎝を超える花は一般種と比べ迫力があり、販売者であれば当然その最大の特徴である大きな花姿を撮影し、販売促進に用いると思われるからです。当サイトでの一般種とgiganteum種の花サイズ寸法入り画像は下画像の青色種名のクリックで見られます。
下段画像左のCoelogyne rhabdobulbonは現在4株を栽培しており、この5年間ほど開花が途絶えていたことから昨年1株をそれまでの中温室から高温室に移動したことで開花を得ました。本種の生息域は800m以上とされますが、この結果から、恐らく入手したロットはより低地の可能性があります。
着生ラン用の新しい吊り下げ型支持材と植付け例
当サイトでは2017年6月以降から現在まで、着生ランの80%以上に垂直吊り下げ植付け材として炭化コルクを使用しており、その総数は2000株を超えます。当初は610x915x厚み30㎜の炭化コルクを、株や種の生態に応じたサイズにカッターナイフで切断細分化し使用していましたが、2021年から30㎜厚が廃番となり25㎜厚になってからは強度や保水力を高める目的もあり、炭化コルクと同サイズのヤシ繊維マットを合わせた支持材とし、そのサイズは取り付ける株や根の3-4年後の成長(伸長)を考慮した伸びしろスペースを設け、さらに支持材全体が長時間の保湿力が得られるように株取付面には、ほぼ全面にミズゴケを敷くことにしました。こうした炭化コルクとヤシ繊維マットの組合わせは、垂直に吊り下げられた支持材への潅水においては、大量の水を与えても過剰な水分は流れ落ち、長時間のぐしょ濡れを避け気相率を高め、適度に湿った状態を長く持続させる、ランの成長に最も重要な環境を得るためです。
着生ランの垂直吊り下げ材には伝統的に天然コルクバークやヘゴ板が利用されてきました。前者は自然体に近い生態姿を観賞するに相応しく、また後者は気根植物の栽培に適した保湿性と気相率をもっているためです。反面、コルクバークは保水性が低く、ミズゴケを多用しても国内の気候風土では根周りの乾湿の変化が大きく、こうした環境下の栽培には特に夜間平均湿度80%以上の確保が前提となります。一方、ヘゴ板では根が固いヘゴ繊維深くに入り活着するため、植替え時の株の取り外しには多くの根の切断が余儀なくされ、植替え後の作落ちの発生率が高くなると云ったそれぞれの問題を抱えています。
振り返って、当サイトでは2005年以来2016年までは胡蝶蘭原種を中心に多くの着生ランの支持材には杉皮を使用してきました。杉皮の保水力はコルクとヘゴ板の中間に位置し、また素材としては軽く低コストであることが特徴でした。高湿度環境においてはいずれのランも良好な成長が観測され、杉皮を嫌う種はありませんでした。しかし薄い杉皮の問題点は湿度の変化で大きく反ることと、特に裏面には白カビの発生が見られ観賞する上で好ましくなく、こうした背景から2017年以降はほぼ全ての着生ランの垂直吊り下げ支持材を炭化コルクへと切り替えました。
そうした中、新たな植付け材として2022年7月に国産杉皮板(杉皮の付いた1-2㎝厚の板)が入手可能となり、70株程の植え付けを行いました。杉皮の長所短所は前記した通りですが、もう一つの大きな利点は植替えにあり、それまでの支持材から株を外す際には、表皮活着面形状が複雑なバージンコルク、あるいは炭化コルクやヘゴ板のように根が支持材の表面だけでなく内部にも伸長する素材とは異なり、平面的で薄い表皮面や表皮の隙間に根を張るため、根を余り傷つけることなく剥がすことができることです。この結果、植替え後の作落ちを防止できるだけでなく、支持材からの根を含めた取り外し作業に要する時間は、炭化コルクに比べて1/10以下になります。この時間差はランを販売をする上でのコストに大きく影響します。こうした背景から、反りやカビ発生率の少ない1㎝程の厚みのある杉皮板を新たな支持材にすべく今後の持続的な入手を期待することにしました。しかし原木からの杉皮板の製材はコストパフォーマンスが悪いためか、残念なことに昨年来出荷が途絶えています。
そこで考えられるのは容易に入手可能な薄い杉皮と、これに重ね合わせる板(基板)を組み合わせた支持材です。基板には無垢材や合板等が考えられますが、無垢材の場合はその重量および株に合わせた多様なサイズの裁断の難易度、また合板の場合は接着剤等の化学物質とランとの相性、さらに基板も杉皮同様に常に潅水を浴びるため、経年劣化の度合やカビの発生の有無等について問題がないことが利用条件となります。そこで軽く、またカッターナイフ等で任意のサイズに容易に切断でき、カビや腐敗もなくラン栽培に実績をもつ炭化コルクは、一つの適材ではないかと考えました。すなわちこれまでのヤシ繊維マットを杉皮に置き換えた支持材です。
この新たな組み合わせによる支持材で検討しなければならない点は素材のコストです。ネット検索での炭化コルク材(コルダン25、規格610x915x25㎜x12枚)の価格は現在28,000‐35,000円程です。この規格品からは当サイトでの栽培に最も使用頻度の高い支持材サイズとなる45㎝x15㎝角サイズを切り出すとして、96枚相当が得られ、1枚当たりの単価は360円程となります。一方で天然杉皮は3尺タイプ(30㎝x90cmx12枚)が現在9,000円程であり、炭化コルクと同じ45㎝x15㎝サイズで48枚が取れ、1枚当たりの単価は約190円です。よってこれらを合わせると45㎝x15cm支持材1組当たりのコストは550円となります。ちなみに30㎝x15㎝サイズでは368円で、60㎝x15㎝サイズでは840円となります。当サイトでの栽培では前記した株の伸びしろや保水性を高める視点から、マーケットに多く見られる30㎝サイズのコルクやヘゴ板等では小さすぎ、小型のバルボフィラムを除き30㎝サイズは2021年から使用しておらず、少なくとも40㎝以上としています。45㎝長支持材のコスト550円は、マーケットに見られるコルクバークやヘゴ板と比較するとかなり安価となります。
下画像はネットで購入した左が610x915x25㎜の炭化コルクと30㎝x90cmの3尺天然杉皮です。中央はこれらから45x15cm、右は60x15cmサイズに裁断したラン支持素材となります。杉皮は反ることからコルクに乗せる前に縦方向に割目を入れます。この割目とは杉皮の反る方向とは逆に複数個所を局所的に強く曲げ、薄板を折る感じで割れ傷を付けることです。割れる際にバリバリと音がしますがこれで取り付け後の反りが無くなります。裏面を縦方向にカッターナイフで傷をつける方法でも良いと思います。基本的に杉皮は薄く、割目が作り易く購入時の杉皮の裏面には所々に割目を繋ぐ補強材が接着されている程です。ラン支持材としての利用にはむしろ割目があったほうが反りが少なくなります。
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炭化コルク(610x915x25㎜)と杉皮(30㎝x90cm) |
45㎝長 |
60㎝長 |
下画像は上画像右の60㎝支持材にBulbophyllum grandiflorumを取り付ける植付け例を示すもので、左画像はこれまで40㎝長炭化コルクで4年間ほど栽培され、株の1/3程が支持材を超え伸長している様子です。葉付きバルブ数は24個あります。通常こうなる前に植替えが必要ですが、画像に見られるように、はみ出したバルブや葉は元気であるため後回しにされていました。長くはみ出し根が浮いたバルブからも新芽が見られ、如何に栽培環境が高湿度であるかが分かります。中央画像はこの株の支持材表面のミズゴケを洗い流した様子で、右は支持材の裏面です。多くの根が炭化コルクの表面や内部に張り巡っています。
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垂直支持材上のBulb. grandiflorum |
根の支持材との活着様態 |
支持材裏面 |
上画像の根周りの状態から株を支持材から取り外すには、それまでの炭化コルクの植付け期間に依るものの、水分を常に保ってきた下部はもろく崩れやすいためコルク内部に潜り込んだ根であっても容易に外すことができます。しかし中央から上部に活着した根の取り外しには経験と技術が必要となります。取り外し作業に慣れていても、上画像の様な状態からの取り外しには凡そ1時間ほどを要します。下画像左はコルクから取り外し根を洗浄した株の様子で、3つに株分けしています。その一つが中央画像の葉付きバルブ数11個の株です。60㎝長炭化コルクに杉皮を重ねその上にミズゴケを敷き、株を置いた様子です。画像では根は複雑に絡み合っていますが、こうした状態のまま根周りをミズゴケで覆うのではなく、まづ根を解した後に広げ、それぞれの根が互いに接触しないようにミズゴケを根の間に挿みながら3層程に重ね合わせ植付けていきます。この処理の良し悪しは後の順化栽培に影響を与えます。右は植付けが完了した様子で、伸びしろ部分となる杉皮の上部も保湿性を高めるためミズゴケで覆います。これで次の植替えは、上画像に見られるようにバルブが支持材から溢れるであろう3-4年後となります。次回の株の取り外しは1時間以上を要した今回の炭化コルクと異なり、薄い杉皮となるため10分程度で終わると思います。
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Bulb. grandiflorum 支持材取り外し株 |
炭化コルク・杉皮支持材への株のレイアウト |
植替え完了の様子 |
下画像は45㎝x15㎝炭化コルクと杉皮構成の支持材に取り付けたデンドロビウムとドラキュラです。いずれも葉下あるいは長く下垂した花茎の先に開花するする種でポット植えには適さず、こうした支持材への取り付けとしました。それぞれの花は画像下青色種名のクリックで見られます。
中温室にて現在(17日)開花中の3種
現在(10日)開花中の10種
下画像でAerides leeanaは現在34株栽培しており全株が同時開花しています。Bulbophyllum nasica yellowはBulb. championiiとは別種となります。これらの比較画像は Bulb. championiiのページで見られます。画像下の青色種名のクリックで、それぞれの詳細画像にリンクします。
ドラキュラ属ページの立ち上げ
本日(7日)、南米生息のドラキュラ属のページを更新しました。当サイトのトップページの”南米原種/Dracula”メニューから現在掲載の65種のドラキュラ画像にアクセスし、サムネール画像のそれぞれをクリックすることで当該種の詳細画像が見られます。種によっては写真数が少ないものがありますが、それぞれの今後の開花を待って撮影し、順次追加・更新する予定です。
今回のドラキュラページの制作で最も困難であったのは、入手株の種名ラベルミスが多いことと、現在ドラキュラに関するネットサイトに見られるように種名と画像との不一致が多数見られ、また個体差の範囲が広い結果、異種間での花フォームの類似性も高くなり同定が極めて難しいことです。さらにズーム機能による拡大画像はそれなりにあるのですが、類似種の決定的な相違を識別するに必要なリップ詳細情報等が少なく、止む無く種名から得られるネット画像を比較し、多数決で種名を確定することもあって想定外の時間を要しました。今回掲載した中にも種名については要検討種が数点あります。また当サイトに記載の各種の生息域(標高)は暫定的にネット等に見られる公表値の中央値としています。
新ページは65種の掲載ですが現在、未掲載種が17種また種名不詳とされる種も8株ほど栽培しており、今後の開花を待って順次ページを更新していく予定です。ここまで来れば、中途半端な情報量に終わらせることなく今後は140種の内の残りの株を全て発注し、1-2年後には入手可能な全種の栽培と情報収集を目指す計画です。なおこうしたドラキュラ属の販売ですが、現状のミスラベルの多さを考えると当面は花確認済みの分け株を予定しています。
現在開花中の9種
温室内ではこのところの異常な気候の変化に、晴天日の日中は30℃を超える一方で雨天日は20度以下となり、温室の換気扇カバーを外し自動運転に切り替えました。この時期は株の根周りを常に適度な湿り気を与えることで盛んな新芽の発生や伸長が見られます。下画像は現在開花中の9種です。画像下の青色種名をクリックすることで詳細画像にリンクします。
現在開花中の6種
現在開花中の6種を撮影しました。Bulb. orthosepalumは2株が開花中で、下画像はその内の1株です。Den. atjehenseは入手が難しい種で、国内をはじめ世界のマーケットにおいても販売実態が見られません。現在本種の大株が5株あり、開花後に株分けする予定です。Den. boosiiのセパルペタルは通常白色ですが、僅かに中心部が薄緑色のフォームも見られます。しかしそのほとんどは開花数日で白色に変化し、緑色が落花時まで保持される種は現在40株程を栽培していますが今のところの確認では下画像の1株のみです。
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