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8月
Bulbophyllum lasianthum
本種はボルネオ島やスマトラ島などの低地に生息する大型のバルボフィラムで、その花色にはredとyellowフォームがあり、当サイトではボルネオ島からのyellowフォームの初花は8年前に得ましたが、今回のredフォームは初の開花となります。実はredフォームを海外に発注した記憶が無く、Bulb. lasianthum yellowあるいは同時期に入手したBulb. virescensに混在していたものと思います。ネット上でのマーケット情報からは国内での販売は見当たらず、一方海外では多数見られるものの価格は$20(9㎝ポット)から$230(2バルブ)まで様々で、いずれもこれらの株はポット植えとなっています。本種の持つBS株の葉サイズから推定すると株の多くは苗あるいは2-3バルブの分け株のようです。また本種の花は悪臭があるとされますが、50㎝程近づいて確認(その程度まで近づかないと匂いを感じない)しましたが、Bulb. echinolabiumやbasisetum程の悪臭はなく、ネット上に記載された情報が果たして情報掲載者自身の実態確認をしたものかどうか疑問です。あるいは臭気の種類や強さは株や栽培環境によって異なるのかも知れません。またIOSPEでは花サイズは1㎝との記載ですが、このサイズはペタルが開いていない半開き状態での計測値と思います。実態はペタル間スパンはNSで3㎝以上あり総状花序で多輪花の大きな集まりです。
下画像は今回開花したBulb. lasianthum redです。19輪の同時開花で、撮影は28 - 29日となります。株は現在1m以上に成長しており葉サイズは最長で50㎝程となります。本種は初開花となることから新たにバルボフィラムのページに追加しました。詳細情報は画像下の青色種名のクリックで見られます。
Bulbophyllum bataanense
フィリピンマニラ湾西側に位置するbataan州に由来する種名を持つバルボフィラムBulb. bataanenseの植替えを行いました。今年1月に報告したバルボフィラムHyalosema節のBulb. arfakianum類似種と同じ様に、現在のマーケットにおいて本種も様々な名前で呼ばれ統一性が無く、その詳細は今年5月の本ページで取り上げたばかりです。再度要約すると、本種はBulb. sumatranumと同種とか、Bulb. siamenseとはシノニムの関係と見做されている一方で、J. Cootes著書PhilippineNative Orchid Species 2011では、本種はフィリピン固有種(endemic)とされます。こうした状況下では多くの趣味家が本種を入手する場合、真正な株を得るのは難しいのではと考えています。そこで当サイトでは、Bulb. bataanenseと同種と見做された全ての種を浜松温室にて栽培していることから、それらの花形状と本種とを画像比較しました。結果としてBulb. bataanenseは、Bulb. sumatranum、siamense、lobbii等とは異なる独立した種とする Cootes氏やIOSPEと同じ立場を取ることにしました。この類似種との比較画像は下青色種名のクリックで見ることができます。
下画像で左が本種、右は60㎝x15㎝サイズの杉板への24日植付けの様子です。そのうちの左から4枚が花確認済みのBulb. bataanenseで、葉付きバルブ数は1株当たり10 - 16個です。右2株は花が未確認のため現状では種名不詳のspとしていますが、同一ロット株でありバルブや葉形状から本種と思います。今後の下垂取付タイプのバルボフィラムの新たな支持材は、この画像に見られるようにほぼ全てを杉板あるいは杉皮とする予定です。その背景には10バルブ程の株サイズであれば植替えや出荷の際、10分もあれば根を殆ど傷つけることなく取り外しが出来るからです。
猛暑の中の栽培
エアコン等による冷房対策の無い栽培環境での今年の記録的猛暑は、多くのランに多少の差こそあれダメージを与えていると思います。標高1,000m以下に生息するランにとって、昼間の栽培温度が40℃前後であっても、数時間程度であれば耐えられますが、夜間平均温度が30℃を越えるような状態が1か月も続けば、殆どの属種が高温障害を負うことは避けられません。その初期症状の多くは例年の夏期の開花が見られない、あるいは花数の減少、若芽に張りが無く葉色が精彩を欠く等です。さらに進行すれば、まず葉先が黄色化し、その部分がやがて枯れ始めます。これは既に高温により根腐れが生じていることが原因で、この段階に至ると回復は困難となります。ネットの販売株でよく、若い葉にも拘らず葉先がカットされた株を見かけます。こうした株は必ず根をチェックしてから購入すべきです。カットされた葉数が多ければ、多くの根はすでに失われている可能性が高いと考えられます。
葉色や葉の張りに変化が現れ始めた場合、葉先枯れが生じる前に直ちに低温環境に移すことが必要です。しばしば葉先の黄色化や枯れはあるものの、その面積が小さく、全体としては緑が保たれており、新芽も残っているので、9月に入ればやがて気温も下がるであろうから、このままで乗り越えようと考える栽培者も少なくないと思います。しかし高温障害は高温が過ぎ去った1か月ほど後にそのピークが現れる(多数の同時落葉や茎の枯れ)ことがしばしばです。これは障害が目視できない植え込み材の中の根から始まり、根腐れによってその影響が葉から茎へとタイムラグをもって移って行くからです。
当サイトでは7月からの観察で、これまで5年以上高温室にての栽培で全く問題が無かったにも拘わらず、上記の様な初期症状が今年多数の株で見られたことから、それらを中温室に退避させました。例えばバルボフィラムではBulb. frostii, inunctum-PHL, nasseri, orthosepalum, pustulatum, rugosum, sanguineomaculatum, sannio, sulawesii, glebulosumなどです。特に意外であったのは、厚みのある50㎝以上の葉をもつBulb. orthosepalumの中温室への移動です。7月中旬に高温室での本種の緑色の葉元に、新芽が持つ薄い赤茶色と同じ様な色合いが微かに滲むように現われ、1-2週間ほどかけてその面積が広がると、やがて落葉しました。そこで7株ある全体を詳細に調べたところ、そうした色合いを感じさせる葉が多くの株に見られたことから、糸状菌類による病症ではなく高温障害と見做し、直ちに中温室に移動しました。中温室は夜間平均温度は20℃以下です。2週間ほどで葉は安定し、対応が早かったためか、薄赤茶色の滲みも徐々に消えました。本種の生息域を調べたところIOSPEには標高データは無記載でした。おそらく当サイトのロットは1,000m前後の生息株であったかと思われます。葉がしな垂れ始めたり、若干色褪せ始めての中温室への移動は、Bulb. rugosum, sanguineomaculatumなどですが、現在は新芽の張りも戻りつつあります。このように高温障害による症状は早期発見が重要で、葉先の黄色への変色や枯れが生じてからでは遅すぎます。
高温障害予防の基本は栽培するランの適温を知ることで、ネット情報から生息標高値を得ることもできます。しかし多くのランは、その生息域が広く、例えば500m-1,500mとされていれば、入手した株は高温から低温まで幅のある温度範囲で栽培が可能と誤解してしまいます。そうしたランも僅かながら存在しますが、当サイトの700種を越える栽培種の中で、同一株がそうした広い範囲で栽培が出来たのはこれまで僅か3種(デンドロビウムで1種、バルボフィラムで2種)です。すなわち広く分布する同種であっても、それぞれの地域とその環境に順化した株は、それ以外の地域での適応が難しいと云うことです。また栽培が出来るとは、与えられた環境でいずれも新芽の発生・成長および開花が得られることであって、単に枯れないで居られることとは違います。こうした視点からは、ネットで調べた標高域が広い種については、サプライヤーに入手するその株の生息標高値、それが不明の場合は栽培実態(実際にその株あるいは親株が成長や開花した環境)の情報を確認することです。そのいずれも得られない場合はどうするか、栽培者がリスクを負ってその株の適切な栽培条件を見つけなければなりません。
巷ではランの栽培は難しいとの言葉をよく耳にします。おそらく多くは、適切な栽培要件(情報)が得られていないことに起因する問題と思います。繰り返しになりますが、そうしたリスクを少しでも軽減するには、国内には全蘭、蘭友会また地方にもそれぞれのラン愛好会があります。昨今の気候変動に直面した時代にこそ、ランを愛好する仲間に加わり栽培の知恵を分かち合うことが必要と思います。
現在(20日)開花中の6種
Aerides quinquevulnera var. punctataはセパル・ペタルだけでなくリップ測弁にも点状斑点が覆っていることが特徴です。Bulb. hampeliaeは昨年と今年取り上げた本種の株とは別株での開花です。Coelogyne sp aff. longirachisは初めて見るセロジネです。この株は5年以上前に入手しており、昨年までクールタイプのCoel. longirachisとして低温室にて栽培していましたが開花が無く、今年春に高温室に移したところ昨今の猛暑の中、開花しました。花形状からはLongifoliae節と思いますが種名は現時点で不明です。
Dendrochilum macranthumについては、入荷時は種名不詳でしたが、この種名に至るまでの経緯の詳細は2022年8月のぺージに記載しています。今回の開花を機に本種のページを更新しました。現在ページに見られる大株を上回る株もあり、4-5バルブ単位で株分けする予定です。Bulb. hampeliaeを除き、他は全て高温室にての栽培で、先月から1か月間以上夜間平均温度が30℃を越えた環境での開花となります。
Dendrobium mutabile albaの開花
猛暑の中、Den. mutabileが開花しています。本種の花は小型で、リップ中央弁の基部寄りにあるオレンジ色の斑紋が特徴です。多様な花色フォームを持ち、現在開花中の株は下画像中央(16日撮影)に示す黄色の斑紋やセパル・ペタルに淡い青紫のラインの無い白一色のalbaフォームです。 6年間植替えが無かったため、18日にそれまでのクリプトモス・ミズゴケミックスのポット植えからバスケットに一部を植替えしました。その様子が画像右となります。バスケットにはそれぞれ2株の寄せ植えとなっています。またこの機に本種ページも更新しました。画像下の青色種目のクリックで見られます。
現在(14日)開花中の6種
Den. ovipostoriferum bicolorはドーサル及びラテラルセパルが白一色の一般種に対して、ラテラルセパルの半分とSpur(距)がオレンジ色となるフォームです。Den. boosiiはDen. ovipostriferum同様に定まった開花期は無く、年に3-4回開花します。リップの色合いは季節によって変化があり、この多様なフォームは画像下の青色種名のリンク先で見られます。Clctn. merrillianumは久々の登場です。今回の同時開花数は34輪で中温室にての開花となります。
Coelogyne pandurataの植替え
Coel. pandurataはCole. exalataと同じく花色がグリーンのセロジネで、今年2月には大株となった2株の内の1株を3つに株分けし植替えをしました。それまでの取付材は炭化コルクでした。セロジネは過っての栽培経験から杉板と相性が良く、このため昨年は2年前の杉板の再入荷を待っていたのですが得ることが出来ず、止む無く2.5cm厚60㎝と45㎝の炭化コルクとヤシ繊維マットの構成材に、分け株をそれぞれ植付けました。その時の植替え後の画像は今年2月の本ページに掲載しています。ところが今回、能登から杉板の入荷が新たに始まり早速、植替え待ちであった残る1株を、60㎝長と、60㎝から40㎝長に切りだした2枚の杉板を接合して1mに仕立て、これに取付けることにしました。下画像はその植替えまでの様子です。花を除いて撮影は12日です。
画像上段右は今回植替えを行った株で、これまでは60㎝長炭化コルクに取り付けられており、コルク表面のミズゴケを洗い流した後の様子です。この面の一部を拡大した画像が下段左となります。多数の根が密に重なり合いながら、コルクの表面や内部に張り巡っています。この状態から極力根を傷つけることなくコルクから株を取り外した株裏面の画像が中央で、右はその一部の拡大画像です。多くの根がコルクに活着していたことが分かります。上段右の状態から、それぞれの根を1本づつ株元から先端まで取外すには、コルクの下部から順次、数ミリ単位でコルクを崩しながら根とコルクを分離します。本種は根が細いため無傷での取り外しが難しく、今回はこの分離に3時間余りを要しました。
下画像は取り出した株を1mx15㎝の杉板に取り付けた様子です。この植付けには、上画像に見られる絡み合った根をほぐした後、リゾームを中心軸として左右に分け、杉板に薄く敷いたミズゴケ上に広げ乗せます。その後、
バックバルブ(古いバルブ)側の生え際から数本の根を選びそれぞれの根が交差しないように扇状に広げミズゴケで薄く覆います。次に近接する場所にある他の根も同じ様に数本を選び、その覆ったミズゴケの上に選んだ一部あるいは全ての根を乗せ、それらも扇状に広げてミズゴケで覆います。この処理を順次、リード(先端)バルブ方向に移動しつつ繰り返すことで、それぞれの根はミズゴケを挿んだサンドイッチ状の多層配置となり長い根であっても、つけ根から先端まで他根と直接接触することなく植付けられます。多数で混み合った細く長い根の場合では、根の位置決めに多くの時間を要します。この処理を左右に分けた他方の根に対しても行い植付け完了となります。こうした植付けをした株が下画像左です。中央は側面からの撮影、右は1m杉板を裏面から見た画像で60㎝と40㎝長の板が金具で接合されていることが分かります。また多数の線が板上に横切っていますが、これはバルブやミズゴケを固定するための1㎜径の盆栽用アルミ線です。植付けの後の画像からは1mもある取付材にも拘らず株は自然体で違和感がありません。半年もすればミズゴケ全体に緑色のコケが付き一層自然な景色になります。
今回の株の植替えでは、取り外しと植付けを合わせた総作業時間は6時間程となりました。大株とは云え、僅か1株にこれほどの時間を掛けていれば人件費だけで一万円を優に越えてしまいます。これは取付材内部に潜り込んだ根を取り出さなければならない炭化コルクの植替え故に生じた問題です。しかし上画像の根の活発な成長様態からも分かるように、炭化コルクは多くのランにとっての植付け材として優れた特性をもっており、趣味家から見れば植替えに多少の時間がかかっても、株の成長に適した素材であることが最も重要な要件として気にはならないかも知れません。反面、販売する立場からは、植替えコストは大きな問題となります。
では支持材内部に潜り込んだ根の取り外しがほぼ不可能なヘゴ板に植え付けられた株のように、根を力づくで剥がせばよいかと云えば、殆どの根は引きちぎれ、無傷の根は殆どなくなります。この結果、植替え後の順化期間が長くなり、また根の損傷程度によっては一部のバルブが枯れたり作落ちが避けられません。まして今回のような猛暑下での植替えは株が枯れる恐れもあります。
杉板植付けの利点は、根はすべて同一平面上に張るため、板からの取り剥がしは短時間で終わることです。こうした株を新たな杉板に移す際には、取外された根は既に平面展開し固まっており、前記したような作業は少なく、枯れたバルブや根を除いた後は、洗い流されたミズゴケで空いた根の隙間に新しいミズゴケを詰め、その後に全体をミズゴケで覆う処理で済みます。云わば植替えは株の不要部分の削除、株分け、株サイズに対応した伸びしろの面積の確保及びミズゴケの交換による保水力の維持のための作業となります。十分な株の伸びしろ面積があり、板の状態に問題が無ければそれまでの杉板に再度植付けることもできます。よって杉板同士間の植替えであれば、作業コストは画期的な減少が見込まれます。
一方、多くの素材にはそれぞれに長所と短所があります。ランを栽培する上での第一の課題と条件は栽培環境での夜間の高湿度化です。これは全てのランに共通する問題で、夜間湿度は高くなければなりません。多くの趣味家が吊り下げ栽培に失敗する原因の一つは夜間の湿度不足です。こうした背景から高い気相率(植え込み空間内での空気の占める割合)と共に保水力のある素材がランの栽培に選ばれてきました。炭化コルクや杉板材は、平面への株の取付のため気相率は高いものの保水性が乏しく夜間の高湿度対応と共に、保水性を高めるためにミズゴケを比較的厚く、広く取付面に敷くことが必要となります。
Cymbidiumの植替え
当サイトでは現在、ボルネオ島高地生息のシンビジュームCym. elongatum、 haematodes、 ensifolium、lancifoliumと、フィリピン生息のCym aliciae、さらに種名不詳のシンビジューム数種を栽培しています。前回の植付けから5年程経過したため今回植替えを行いました。それまでの植込み材はバークやクリプトモス・ミックスでしたが、これらシンビジュームは地生ランでもあり、今回はパフィオと同じバーク、焼赤玉土、十和田軽石、麦飯石のミックスに変更しました。下画像はその中のCym. aliciae, elongatum及びhaematodesの3種です。画像にはポットにミズゴケが見えます。これは根周りの気相率を上げるため、麦飯石を除き植込み材はLサイズを用いており、パフィオの植付け同様に水分の蒸散を押さえる目的で表面に薄く敷いたものです。
生息域が300m - 2,700mとされるCym. aliciaeは、これまで中温と高温室に分けて栽培をしてきました。しかし入荷ロットはやや低地側であったのか高温室の方が安定していることが分かり、植替え後は30株程ある全てを高温室栽培としました。他のシンビジュームは全て中温室にての栽培となります。
現在開花中の12種
現在(7日)開花中の12種を撮影しました。画像下の種名欄に記載の(H)マークは、高温室(今年の7-8月の夜間平均温度30℃)にての開花です。(H)マークの無い種は中温室(夜間平均温度20℃以下)にての栽培となります。Trichoglottis atropurpurea flavaは2014年にフィリピン現地にて入手した株で、ネットからは海外を含め当サイト以外にflavaフォームは見られません。Coel. kinabaluensisの一般種は花全体がアンバー色ですが、下画像のflavaフォームは蕾から落花までの期間、セパル・ペタルは画像に見られる透明感のある黄緑色です。
Dendrobium stuposumについて
本種はインド(北東地区)から中国南部、ブータン、タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、フィリピン(近年:2013年発表)に至る広い地域に生息するデンドロビウムとされ、落葉した疑似バルブから5-6㎝長の花軸を伸ばし、総状に1.5cm程の花を2輪から10輪程が開花します。本種のリップにある斑紋の色は多様で、当サイトではこれらの彩りを識別するために種名に赤色をred、オレンジ色をyellowの付帯名を付けています。そうした中、今月本種のredフォームが開花し、8年近く本種を歳月記に取り上げていなかったこともあり、この機会にと再度本種を調べてみました。下画像は現在当サイトのページに掲載の3つのフォームです。redとyellowフォームは2014年にspとしてスマトラ島から、aff.フォームは2016年カンボジアからのDen. intricatumに混在して入荷した株花です。いずれもDen. stuposumとの認識の上で入荷した株ではありませんでした。初花を得た当初、Den. sphegidoglossumとの情報を得てしばらくはその種名としましたがDen. sphegidoglossumはDen. stuposumのシノニムとされていることから現在は種名をDen. stuposumとしています。
本種の特徴は上画像に見られるように、リップの中央弁と側弁の縁に細毛があることです。またredフォームは赤色の斑紋がリップ中央部に、yellowフォームはリップ先端部にオレンジ色が、またaffフォームは白色をベースに黄緑色となっています。そこでネット上での現在の本種に関わる情報とマーケットについて調べました(下記の青色文字のクリックで詳細が見られます)。
本種のyellowフォームはIOSPE、Andy'sOrchids、PhytoImages.siu.eduなどのサイトに見られ、ネットからはこのフォームが一般的なようです。一方、redフォームはTropicalExotiqueサイトにyellowフォームと並んだ花画像があり、その解説にredフォームを’Dendrobium sp?’ との注釈(stuposumとは異なる種名不詳種の可能性)が付けられています。他には不鮮明な画像ですがflickr.comに1点あるのみです。またaff.フォームはKew、ResearchGate、BBOrchidなどのサイトでそれぞれ見られるものの同一画像のコピーです。Den. stuposumは東南アジアほぼ全域の低地(400m)から高地(2800m)に広く生息しているとされるにも拘らず、ネット上でのこれらの情報実態を考えると、redとaffフォームは現在、流通が極めて少ないデンドロビウムと思われます。国内マーケットでは現在皆無となっています。
下画像にこれら3フォームについての形状の違いを示しました。redとyellowフォームはリップ中央弁及び側弁の縁に、絡み合う長い細毛突起がある一方で、aff.フォームは比較的幅のある短い突起となっています。、また前者2種はペタルの縁にも突起が見られますが、aff.フォームには凹凸程度の小さな突起となっています。画像に示していませんが、左右ペタル間スパン(花サイズ)はredおよびyellowフォームいずれも1.3-1.5㎝に対し、affフォームは2.5cmと大きく異なり、疑似バルブもaff.フォームは1.5-2.0倍ほど他に比べ太くなっています。こうしたサイズの違いは成長度による個体差なのか地域差なのかは現時点では分かりません。これらの相違点を総合すると、redとyellowはDen. stuposumであるものの、aff.はDen. sphegidoglossumで、それぞれはシノニムではなく別種の可能性も考えられます。
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Den. stuposum red |
Den. stuposum yellow |
Den. stuposum aff. |
新たな杉板の入手と植付け
杉皮をランの植付け(取付)材とする栽培は、当サイトでは20年ほど前の胡蝶蘭原種から始まり、現在も多くの属種の有用な素材として利用し、優れた実績を得ています。
そうした中、2022年7月に厚みのある表皮付きの杉板が70枚ほど入手でき、新たな取付材として栽培を始めました。しかし一様に表皮に覆われた板材を、原木から切削するには適期があり、通年での一定供給は難しいとのことで昨年は入手が全く出来ませんでした。そうした背景から杉板を諦め、今年の歳月記3月に報告したように、杉皮自体は庭門や垣根材として容易に且つ比較的安価に入手できることから、その反りやすい欠点を補うために炭化コルクと組み合わせたランの取付材を考えました。現在ではこの構成材を多数の属種に使用しています。
こうした中、石川県能登で建設と製材業を営むラン趣味家の方が6月末に当サイトの温室へお見えになった際、杉板に取り付けられたランを購入され、こうした杉板ならば試作が可能とのご提案を頂きました。そこで早速、60㎝ x 15cm程のサイズをお願いしたところ、1か月ほどで100枚の杉板を得ることが出来ました。それが下画像に示す表皮付き杉板です。縦60cm、横幅14㎝±2㎝のサイズで、厚みは横幅中心部の最も厚い箇所で2㎝程です。このサイズであれば垂直取付が必要な殆どのランに使用可能で、小さなサイズの株に対しては横幅はそのままに60㎝長を適当な長さにノコギリで裁断し、また60㎝を越えるサイズが必要であれば、前記歳月記2022年7月に解説した金具で繋げば1m以上の取付材も容易に作製できます。
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杉や檜の樹皮はランの培養土(クリプトモス)として、また樹皮を木材の形成層と共に板状に切り出した杉皮はランの取付材として優れた成育をもたらしています。さらに杉皮に心材部分を含ませ上画像が示すような板状とすることで反りが無くなり、ヘゴ板やコルクと並んで半立ち性あるいは下垂する花茎や長いリゾームを持つ原種栽培の有望な取付材となるだけでなく、何よりも原種本来の自然体に近い姿の具現化に大きな役割を果たします。下画像は今回入手した杉板での植付けで、3種を昨日(1日)撮影しました。
(後述:今月6日の時点で杉板入荷数は170枚程になりました。)
表皮付き杉板の今後の供給については、天然材のためジャストインタイムに入手出来るとは限りません。そのため対応の一つとしては供給が困難な期間は通年で入手可能な杉皮と、その基板として床板材の様な薄い杉板あるいは発泡スチロールなどを、現在高騰を続ける炭化コルクに代わって使用することを考えています。おそらく現在の当サイトでの主な取付材としての炭化コルクの利用は、3-4年後には全面的に無くなっているかも知れません。
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