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5月
Bulbophyllum bataanenseの不可思議な情報
前項の「開花中の12種」でBulb. bataanenseの画像を掲載しました。本種についてJ. Cootes著Philippine Native Orchid Species, 2011によると、種名由来であるルソン島Bataan州を始めLeguna, Rizal州など、さらにミンダナオ島Davao, Lanao州の低地に生息するフィリピン固有種とされます。一方、Bulb. bataanenseでネット検索すると、Andy’s OrchidではBulbophyllum sumatranum (bataanense) が表記され、bataanenseとsumatranumは同一種?であるかのような記載が見られ、さらに別ページにはBulbophyllum-bataanense(lobbii)名もあり、それぞれのページには、前者はsumatranumで、後者はbataanenseのそれぞれ異なる花画像が見られます。一方、WFOではBulb. bataanenseとBulb. lobbii subsp. siamenseとはシノニム(異名同種)の関係で、Bulb. lobbii subsp. siamenseの分布はカンボジア、ミャンマー、タイ、マレー半島、ボルネオ島、フィリピンとするページへのリンク・アドレスが記載されています。すなわちBulb. bataanenseと、Bulb. lobbiiの亜種であるBulb. siamenseは同種であり、siamenseはフィリピンを含め東南アジアに広く分布するとのことです。しかしJ.Cootes著書およびIOSPEのBulb. siamenseのページにはいずれもsiamenseがフィリピンに生息するとした記載はありません。ではsiamenseをbataanense名に変更(実在しない種名)したBulb. lobbii subsp. bataanenseでネット検索すると、表示される殆どの画像がBulb. siamenseや他種です。
IOSPEでのbataanenseのページでは、本種は”しばしばBulb. lobbiiのシノニムとされている”との記載があるもののBulb. bataanenseの生息域はフィリピンのみが記載され、Bulb. bataanenseとBulb. siamenseは別種としてそれぞれのページを構成しています。これら情報を整理すると lobbii、sumatranumおよびsiamenseはBulb. lobiiの亜種とされる一方で、Bulb. bataanenseは亜種としての位置づけではなく、Bulb. simaneseのシノニム、いわゆる同種としていることです。では両者は生息域のみが異なる同種なのか云えば、その花形状は別種とする程の相違点が見られます。それはJ. Cootes氏著書、IOSPEまたAndy’sOrchidに掲載されたそれぞれの花画像とBulb. siamense(下画像も参照可)との比較からも明らかです。おそらくBulb. bataanenseは他の亜種と比べればBulb. siamaenseにより似ており両者を別種とすることもないと言った判断と思われます。こうしたBulb. bataanenseとsiamenseの同種化の背景からか、国内外マーケットにおいて下画像に見られるようなBulb. bataanenseの開花種とは異なる株がbataanense名で販売されています。
上記の状況からフィリピン生息のBulb. bataanenseをマーケットで得ることは困難との判断から、当サイトで栽培する8株程の本種を早々に植替することにしました。フィリピンにてのBulb. siamenseの生息実態は無いため、もし趣味家がJ. Cootes著書、IOSPE、Andy’sOrchidあるいは当サイトに見られる花形状やフォームのBulb. bataanenseの入手を求める場合は、その株がフィリピン生息か否かをサプライヤーに確認することが必要です。Bulb. bataanenseはフィリピン以外での生息は現時点で確認されていません。
下画像上段はBulb. bataanenseで、下段は上記に取り上げたBulb. lobbiiの亜種のそれぞれです。Bublb. lobbii(亜種を含め)はペタルが後方に大きく湾曲しますがBulb. bataanenseは上段中央画像に見られるように開花から落花まで反りは僅かです。これは青色種名のリンク先に掲載したBulb. siamenseのペタルの反りとも異なります。また花色は異なりますが本種の視覚的外形はJ.Cootes氏が述べているように、むしろBulb.deareiに似ています。
現在(27日)開花中の12種
上段左のBulb. sulawesii semi-albaの栽培株は当サイトのみのようで、今年は自家交配を予定しています。下段中央のCoel. asperata affは、リップ中央弁の形状はasperataの一般種に酷似するものの、花茎は直立し一般種の弓なりあるいは半立ち性と異なり、さらにバルブ形状も画像に見られるように円錐形で長く、一般種の卵形とは異なります。また下段右のCym. haematodesは、東南アジアに広く分するCym. ensifoliumの亜種としてCym. ensifolium subsp. haematodesともされます。亜種であれば特定の生息地がある筈ですが、ネット情報ではensifoliumとほぼ同じ生息域(インド、タイ、ベトナム、ボルネオ島、マレー半島、ニューギニアなど)の記載になっています。広域生息種であれば、花サイズ4.5㎝幅で見ごたえがあり、マーケット情報は多い筈ですが、国内においては現時点において当サイト以外見当たりません。下画像種はフィリピン・ミンダナオ島Bukidnon生息種として入荷したものです。
Den. taurinumは久々の登場です。現在9株程を栽培しています。Dracula soennemarkiiは2012年発表の比較的新しいドラキュラです。またDracula radiella (Syn: fuliginosa)は当サイトでは先週までtubotae affとして掲載していた種で、今回Dracula radiallaに修正しました。
下段左のPaph. stoneiのペタルは17㎝長あります。この長さが一般種と比べ長いのか短いかは分かりません。中央のPaph. spは昨年5月の歳月記に当サイトでの初登場として掲載しました。花形状はwardii-albaに似ていますが画像の株は生息地がフィリピンとのことで、wardii-alba aff.(wardii-alba 類似種)としています。画像下の青色種名のクリック先に詳細画像があります。
現在(20日)開花中の6種
下画像左のBulb. macranthum aff.は形状がBulb. macranthumに似ていますが、セパル・ペタルのテキスチャーが大きく異なります。このようなフォームの有無をネットで調べているのですが、当サイト以外に無く、果たして新種あるいは変種かは現時点では不明です。本種の詳細については画像下の青色種名のリンク先で見られます。またBulb. macranthum一般種のフォームはこちらとなります。
中央のBulb. deareiはボルネオ島、マレー半島、フィリピンに生息するマーケットでもよく知られたバルボフィラムです。その中で画像下青色種名のリンク先に掲載したドーサルセパルが他のセパル・ペタルに対しアンバランスな程の大きなフォームも入手難ですが見られます。
Den. hercoglossum albaは現在マーケットでは殆どが実生とされます。画像の株はマレーシアの趣味家から頂いたマレーシア・ゲッチンハイランドで知られたパハン州生息の野生栽培株で、毎年この時期になると多数の花を付けます。
画像左のbicolor(2色)フォームのDen. dianaeは、現在マーケット情報がネット上には見当たらず画像数も少ないようです。本種の一般フォームは単色の淡い黄緑で、花の後方へ伸びたSpur(距)の先端部は赤紫色をしています。一方、下画像のbicolorフォームは、Spurを含めセパルペタルのベース色は緑みの強い黄緑です。通常このベース色は落花までに日ごとに黄みが増していきますが、下画像種はそうした経時変化がなく本種のflavaフォームとbicolorフォームが合わさったような特性を持っています。Spurを含めたベース色が薄緑一色のbicolor種はネットで見る限り、当サイト以外見られません。
下画像中央のDen. laxiflorumも一般種の開花時のセパル・ペタルは、始めは黄緑色ですが、やがて茶みが増していきます。しかし下画像種は左画像のDen. dianaeと同じように落花間近まで緑色が長く維持されます。こうした特性を持つ株は現在栽培の20株の内、2株程存在します。花の色合いや経時的変化は果たして何に因るものか、よく似た煎茶の色変化は茶葉のクロロフィル(葉緑素)の酸化によるものですが、では花ビラでは?と興味があります。
Den. victoriae-reginaeは青と白の花フォームで、下垂バルブをもつ中温タイプのデンドロビウムです。青みの強い色が好まれますが色の濃淡は栽培環境によって若干変化する様態が見られます。
現在開花中の多輪花種
現在(17日)開花中の1株当たりの同時開花数が多い3種を撮影しました。左画像はDen. uniflorumで21輪、中央のBulb. kubahenseは、手前24輪と後方26輪となります。手前の花は今月9日に取り上げた花で、同じ株に後方は5日遅れの開花です。本種の花軸当たりの花数は葉サイズに比例する様態が見られます。右はBulb. lasioglossumです。今回は1株に6本の花茎が発生し、一茎当たり50輪程の開花のため、合わせて300輪程の開花となっています。
現在開花中のBulbophyllum 8種
この時期は多数のバルボフィラムの開花が見られ、その中から8種を選び撮影しました。上段左のBulb. recurvilabreには多様な花模様があり、写真の株は2016年に入手したものです。画像下の青色種名リンク先ページに、現在栽培している3種類のフォームを掲載しています。共通している特徴は名前由来の、リップ中央弁が湾曲して先端が後ろ向き(recurve)であることです。右のBulb. cameronenseは当サイトでは初めての掲載となります。2016年キャメロンハイランドのラン園にて直接入手しました。Bulb. lobbiiに似た種ですが、サイズは横幅4-5㎝と小型でリップ中央弁に黄色の腺状突起があります。本種のページは現在未掲載です。中段左のBulb. freitagiiは2019年直近発表のニューギニア生息種で、ラテラルセパルが巻きついた形状からはcontortisepalumの色違いのようにも見えますが、ペタルやリップ形状が全く異なり、その画像は青色種名のリンク先に掲載しています。下段右のBulb. sp18は、4-5月が開花期です。特徴は薄緑から淡いピンクの花色があり同一株でも花色が変化することがあります。その一例として、先月の歳月記に掲載(8日)した花色は薄緑色ですが不思議なことに下写真とは別花ですが同一株です。色変化の要因が何か現時点では分かりません。花色は画像下の青色種名のリンク先でも見られます。
Dendrobium cinnabarinumとその変種var. angustitepalumの不可思議な関係
Den. cinnabarinumはボルネオ島Sarawak州Gunung Mulu標高1,200m周辺の生息種とされ、その変種としてvar. angustitepalumが知られています。中でもvar. angustitepalumの入手は現在極めて困難で、マーケット情報もほとんどありません。いずれも中温環境での栽培となります。そうした中でvar. angustitepalumは取り扱い実態が少ない故か、ネット検索ではcinnabarinum一般種とvar. angustitepalumの画像の混迷が多数見られます。そこで今回当サイトで初めて開花した、これまでのvar. angustitepalumとは異なる第3のフォームを得る機会もあり、それぞれの形状の違いを下画像に整理してみました。Den. cinnabarinumの一般フォームは左画像で、中央はその変種とされるvar. angustitepalumです。両者の違いは、一般種のセパル・ペタルは共に幅広の全体がクリムソン色で、花は開ききって開花します。一方var. angustitepalumのセパル・ペタルは一般種と比べ細長く、白と赤の2色でやや抱え咲きです。また画像下段にそれぞれ示すように、両者のリップ(Labellum)中央弁の形状は大きく異なります。
右画像のvar. angustitepalumフォーム2は当サイトで今月初めて開花した形状で、白と赤色のセパル・ペタルは中央画像のvar. angustitepalumと同じで細長く、一方で花は一般種のように開ききっています。また中央画像のリップ中央弁は反りかえっているのに対し、本種は先端部が捩じれています。
問題は、Den. cinnabarinum一般種とvar. angustitepalumとは上画像から明らかなように、セパル・ペタルおよびリップの様態からは、両者はDen. cinnabarinum complex(類似種)であるとしても、var. angustitepalumを変種とするには、一般論として変種の範囲内とは思えない程の視覚的形状の相違が見られることです。本種については変種としての妥当性を明らかにするため分子分類法を用いた検証が必要ではないかと思います。
現在(9日)開花中の3種
Bulbophyllm kubahenseは通常15-17輪の開花とされますが、今回24輪の同時開花が見られたので撮影しました。本種のページ画像の一部更新(画像下の青色種名のリンク先)も行いました。浜松温室では5月から6月が本種の開花期となります。Dendrobium stratiotesは3月(10日)の歳月記に本種の花写真を掲載しましたが 、その画像と同じ花です。すなわち2か月間咲き続けていることになります。デンドロビウムSpatulata節はその殆どが長い花寿命で、特に本種やDen. leporinumは多輪花で花サイズもある長寿命種の見栄えのするデンドロビウムです。Vanda ustiiは2,000年発表の比較的新しいVandaで、その生息域はJ. Cootes著 Philippine Native Orchid Species 2011によるとルソン島1,250m近辺とされます。この情報から当初、当サイトでは中温室にて栽培を始めましたが、現地Alfonso地区(標高350mー780m)にあるラン園にて多数栽培されていることや現地コレクターの情報もあり、株の一部を高温室に移しました。結果、高温室内でも中温室と変わらず多数の開花が見られ、2014年には生息域600mとされる高温タイプのVanda Luzonicaと隣り合わせの栽培にして現在に至ります。こうした実態から当サイトの本種ページの生息域は1,200m以下としています。
現在(6日)開花中の3種
現在開花中の3種を撮影しました。Coel. bicamerataは1928年発表されたスラウェシ島高地生息種で、白色で半透明感のあるセパル・ペタルと、基部が緑色のリップからなる美しいセロジネです。発表から100年近くになりますが、なぜかネット上には本種のマーケット情報が殆ど見られません。現在はかなり希少種となっているのかも知れません。
Den. wattiiについてネットではリップ中央弁先端部がVあるいはU字型(IOSPEなど)でリップ側弁内側が白色無地のフォームと、下画像のようにW型(orchid.url.twなど)でリップ側弁内側がオレンジ色の線状模様のある2つのフォームがあり、後者は別種であるDen. christyanumの可能性もあります。しかしペタルの形状が下画像種は円形に対し、christyanumは先端部が細く尖った長楕円形で異なります。wattiiの生息範囲は広いため、こうしたフォームの違いは変種や亜種の関係ではとも考えられます。当サイトでは2016年1月にカンボジア生息spとして入手しており、下画像フォームをwattiiとしています
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Paphiopedilum rothschildianum は左右ペタル・スパン30cm超えの現在の花姿です。
これまでの栽培で最も大きな葉サイズを持つ3種
これまでの15年間、海外現地のラン園や展示会を含めて多くのラン原種を観察、また栽培をしてきましたが、現在当サイトの温室内では、これまでに見られなかった大きな葉サイズを持つ株が多数出現しており、昨日(4日)それらの内から3種を選び撮影しました。上段はBulb. kubahenseで、左から2つ目の画像は葉付きバルブ数がそれぞれ26個と24個からなる2株で、その中で最も大きな葉サイズは葉身(blade)および葉柄(petiole)部位を合わせて、葉長24.5cmと葉幅10㎝です。一方、中段のBulb. magnumはそれぞれ26㎝x10㎝、下段Coel. usitanaは50㎝以上x14㎝となります。いずれも現時点でのネットや機関誌での情報には見られない大きな葉サイズと思います。こうした葉は偶然に1株に発生したものではなく、同様なサイズで複数の株にも発生していることから、その背景には栽培環境以外には考えにくく、環境が適せば多くの原種でこれまでの情報とは異なる葉サイズが得られることを示しています。
Dendrobium aurantiflammeumの成長
昨年夏の猛暑で大きなダメージを受けた40株程のDen. aurantiflammeumの再生を昨年暮れに取り上げました。その後も新芽の成長は活発で、今年末には1株当たり新バルブが4本から8本加わり、1年後には従来以上の大株になると思います。下画像は4日、8株を選んで撮影しました。
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