栽培、海外ラン園視察などに関する月々の出来事を掲載します。内容は随時校正することがあるため毎回の更新を願います。  2023年度

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11月

現在(27日)開花中の多輪花種

 現在Dendrobium fairchildiaeBulbophyllum recurvilabreおよびbrienianumが開花中です。下画像左のDen. fairchildiaeは20輪の開花です。当サイトでの本種の多くは10年以上の栽培を経て1茎当たりの開花数は15輪から30輪で、全て同時開花となっています。Bulb. recurvilabreは春期と、この時期が開花期となっています。現在ブロックバーク(バージンコルク)付けが3株あり、下画像の株は2023年5月の歳月記にて報告した2株とは別種です。2023年2月に30個以上の葉付きバルブを、83㎝長のブロックバーク植え付けた大株は現在15個程の開花ですが、2-3年後には40-50輪の同時開花を期待しているところです。 右画像のBulb. brienianumもブロックバークに植え付けられた株で、現在20輪以上が同時開花しています。本種はボルネオやスマトラ島生息種で、IOSPEでは中―低温タイプとされています。しかし当サイトでは、9年間本種を高温室にて栽培していましたが今年の猛暑期間も異常は無く、これらは800m以下の生息株と思います。国内でのマーケット情報は現在見当たりません。

Dendrobium fairchildiae Luzon Bulbophyllum recurvilabre Leyte Bulbophyllum brienianum Borneo

Bulb. japrii dark-redおよびBulb. mastersianum lemon-yellowの植替え

 今月報告したBulb. japrii dark-redと、しばらく登場していなかったBulb. mastersianum lemon-yellowの植替えを24日行いました。Bulb. japriiの濃赤色株は、6年間で葉付きバルブ数が200個ほどになり、これを株分けして40㎝x15㎝杉板3枚にそれぞれ35-45個、また30㎝x15㎝杉板4枚にそれぞれ20-25個の葉付きバルブを取り付けました。下画像左花が本種で、中央と右が植替え後の様子となります。
 
Bulb. japrii dark-red 40㎝および30㎝x15㎝サイズ杉板取付株

 Bulb. mastersianum lemon yellowはこれまでに紹介した本種の中でも最も鮮明な黄色のカラーフォームを持ちます。実はこの株は4年間ほど炭化コルクに取り付けられていましたが昨年、コルクの経年劣化でベンチの上に崩れ落ち、これが稀少色であるレモンイエロー株とは気付かず、取敢えずトレーに横たえた状態のまま1年近く置かれていました。すっかり忘れかけていたところ今月、開花している花色を見て驚き、今回の植替えを行った次第です。 本種の花色はYellowからSalmon(黄みのあるピンク)とされますが、単にイエローと云っても黄系統には50種程の色合いがあります。今回開花した花はレモンイエローとされる明るく鮮やかな黄色です。本種の花色は多様なため希望通りの色合いを求めたい場合は、例えば黄色タイプの場合、Bulb. mastersianum yellowでは黄系統全てがその範疇に入るため、敢えてlemon yellowとその系統の中の具体的な色名を指定することが必要です。しかし販売者にとって、こうした要求に応えるには自分の目で花を見ていることが必要で、果たして対応できるかは疑問です。下画像は葉付きバルブ19個の元株を11個と8個の2株に株分けし、それぞれを杉板に植え付けたものです。左花は、葉とベンチに挿まれ咲いていたため花並びが少し乱れていますが21日に、また植付けは26日の撮影です。

Bulbophyllum mastersianum lemon-yellow

 こうした植替え株は2-4週間の順化期間を得て出荷されます。そのため植替え直後の株は購入予約をして頂き、新芽や根の動きを確認するまで待つことになります。また花を直接見て購入される場合は、それが植替え予定株であれば花後に植替えを行い、順化処理となるため出荷はさらに2-3週間後になります。 順化処理は不要とされる入手希望者も時折おられますが その場合は株の状態確認なく出荷となります。

Bulb. virescens, binnendijkiiおよびlasianthumの1.2m杉板への植替え

 リゾームが長く1m近く成長したバルボフィラムの植替えに多くの作業時間を費やし歳月記の掲載頻度がこの2週間ほど減っていました。当サイトでは先端バルブの葉先まで含めると1mを優に超える成長株が多数あり、長いサイズの垂直取付材が必要となっています。大株用にはヘゴ板や炭化コルクが市販品として利用できますが、それぞれが70㎝と90㎝程のサイズまでで、直接1m超えの成長株に対応できる取付材は現在見られません。このため今回60㎝長の杉板を2枚接続して1.2mサイズを製作しました。通常、大きく成長し過ぎた株は市販の取付材に合わせ適度なサイズに切断(株分け)し対処しますが、種によっては株サイズ自体がダイナミックな風景を作り出す観賞の対象にもなり、また花数も同一株に多く開花すれば華やかさも生み出されます。とは云え株先端バルブが1m以上ともなればその葉先は2mに迫り、通常の温室環境での栽培は困難となります。当サイトで、すでにそうした様態であったBulb. lasianthumなど4種程を、その躍動感を極力残しつつも1m以下になるようにリゾームを切断すると共に分割した株の多くを同じ取付材に寄せ植えとしました。
  新たな植付けでは1.2mの支持材の上にまずミズゴケを敷き、込み合った多数の根を解した後に株をそのミズゴケの上に置き、根が互いに直接接触しないように、それぞれの根の間にはミズゴケを挟みながら1㎜径のアルミ線で株全体を固定していきます。今回は重量のある長い取付材だけでなく、株も葉も長いため、こうした植付け作業は大変でした。下画像上段が今回植替えた10株で、左画像が正面、右画像は左側面からの撮影です。右から3株目のやや小ぶりの株がBulb. binnendijkii、一方、左端3株はBulb. lasianthum、他はBulb. virescensです。下段の左画像は今回使用した杉板60㎝x15㎝長を2枚接続した取付材です。中央および右画像は同じ株で今年8月に先行して植え付けた3株です。3か月を経て緑色のコケが付き始めていますが順調に成長しています。


 上記以外にも1.2m支持材への取付予定の別種(Bulb. magnum、fraudulentumtollenoniferumなど)が多数あり、今だ半数にも至っていません。植付け材としての杉板はセロジネと同様にバルボフィラムも相性が良く、この時期はほぼ全ての株で新芽の発生や伸長が見られます。当サイトでは8月以降、デンドロビウムには木製チークバスケットを主に使用していますが、地生ランを除き新たな植替えには、それまでの炭化コルクを止め、杉板(杉皮を含む)に替えています。

Bulbophyllum quadrangulare近縁種についてII

 再三取り上げるBulb. sp aff. quadrangulare (sp32)です。昼近くの撮影のためドーサルセパルが垂れていますが、とうとう横幅NS(自然体)サイズ7㎝の花が咲きました。Bulb. quadrangulare のサイズを2㎝とするIOSPEでの情報が全開時の測定値であるとすれば、本種は似て非なる別種としか思えません。もしかしたらIOSPEのサイズは午後の花が閉じた状態での寸法ではと疑うほどです。下画像の花は先月取り上げた花株とは異なる3株ある中の別株での開花です。こちらも2株がすでに予約済となっています。

Bulb. sp aff. quadrangulare (sp32)NG

現在開花中の3変種:Bulbophyllum japrii, nasseriおよびDendrobium ionopus

 現在開花中のバルボフィラムとデンドロビウムの中から一般種とは異なるフォームを持つ3種を撮影しました。下画像上段が一般種、下段がその変種です。 Bulb. japriiは2022年発表の直近の新種で、西ニューギニア低地生息のバルボフィラムです。本種のカラーフォームは多くがオレンジレッドですが下画像の花はネットで見る限り、現有する中で最も濃いダークレッドです。この色が一過性のものか株固有の特性かを調べるため4年間観察してきましたがフォームは毎年継承されています。2019年春の入手時から6年で現在大株になっており、株分けを検討中です。画像中央のDen. ionopusは一般フォームでは上段画像に見られるようにリップ基部と蕊柱の一部に赤褐色の斑紋があるのに対し、下画像種は斑紋が無くセパルペタルと同色のflavaフォームとなっています。画像右のBulb. nasseriは、一般種でのドーサルからラテラルセパルの先端間の縦幅についてIOSPEでは8.5㎝とされており、一方でJ.Cootes氏著書にはドーサルセパル4.4㎝、ラテラルセパル5.3㎝までとあり、これら数値からは縦幅で凡そ10㎝程となります。当サイトの本種の花サイズは10㎝程が標準で、画像下段株では14㎝となっています。株サイズはその成長過程や環境に影響されることが多く、この株を5年程前にバージンコルクに植替え毎年観測していますが、サイズは変わらずこの株固有の特性ではと考えています。 下段それぞれの花は昨日(18日)の撮影です。

Bulbophyllum japrii West New Guinea Dendrobium ionopus Luzon Bulbophyllum nasseri Leyte

 こうした一般種とは異なる変種の入手は、多数入荷した株の中から偶然見つかるか、現地の多数のラン園を頻繁に見て回り、数百ある開花株の中からこまめに探し出すか、または当サイトでしばしば行っているように、現地園主に一般種と異なるフォームが見つかった場合は当サイト向け予約種として別途保管するよう常日頃の依頼等が必要です。いずれにしてもこれまで殆ど見られない変種を見つけ出すことは、数百・数千に一つあるかどうかで容易ではありません。

現在開花中のセロジネとバルボフィラム

 下画像のCoel. bicamerataは3か月前に炭化コルクから杉板に植替えた2株で、これらが同時開花しました。本種はその花の美しさにも拘わらず国内外共に現在販売情報が無く、生息国ではすでに生息数が激減しているのではないかと思います。当サイトでも販売株は全て現在予約済みとなっています。Coel. moultoniiは例年この時期に開花します、既に葉長は60cmを越える大株となっています。Bulb. scotinochitonは通年で開花していますが、複数株での同時開花(最花期)はこの時期となります。

 Bulb. membranifoliumはボルネオ島、マレー半島、スマトラ島、フィリピンなどの広域生息種で、今回本種を取り上げたのはその花サイズの疑問からです。IOSPEによると本種の花サイズは3㎝とあります。現在開花中の下画像種は6.5㎝です。IOSPEの花サイズは下画像の花のペタル1枚のサイズにも及びません。IOSPEと当サイトでの花サイズの大きな違いはいつものことですが、花サイズは地域差や個体差、あるいは1日の内でも完全に開いた時間と、雲霧林帯生息種にしばしば見られる午後には半開きや閉じる特性もあり一様ではありません。であればJ. Cootes氏著書にあるようにセパル・ペタル等の花被片それぞれのサイズを記載するか、あるいは花全体の縦横サイズを記載する場合は全開時を原則とするか、メジャーを含む花画像を掲載すること等が必要と思います。多くの栽培者にとって種を評価する要素として花サイズ情報は重要となります。本種に見られるように3㎝と6㎝では余りに違いすぎ、サイズ定義の無い数値のみでは情報の信頼性に欠けることになります。

Coelogyne bicamerata Sulawesi Coelogyne moultonii Borneo
Bulbophyllum scotinochiton Sumatra Bulbophyllum membranifolium Bulb. mastersianum Borneo

  Bulb. mastersianumは先月掲載した株と同じですが花は全て入れ替わっています。花茎が10本以上発生しており、多数の同時開花の撮影を期待しましたが虫媒花の特性の一つなのかそれぞれの蕾は時間差をもって開花するタイプで、画像に見られるように同時開花数は5花ほどが限度で、いずれかの花が落花間直になると次の蕾が開花する繰り返しです。それ以上の同時開花数を得るには更なる大株となることが必要なようです。それでも4-5個の花が同時に咲けば本種は花が大きいため、特に黄色タイプはよく目立ちます。画像内の左の2花は変色を始めており2-3日後には落花します。

現在開花中のバルボフィラム

 Bulb. gracillimum semi-albaは、2016年末に入手したBulb. brienianumに偶然混在していたミスラベルの1株で、現在は株分けにより2株栽培しています。このカラーフォームは例年(7年間)継承されており、現時点のネット検索では当サイト以外見当たりません。一方、 Bulb. auratumの白色フォームは現在当サイトのバルボフィラム・インデックス(トップメニュー)に未掲載のため、改めて画像収集後に追加する予定です。

Bulb. gracillimum semi-alba Sumatra? Bulb. plumatum (jacobsonii) Sumatra Bulb. auratum (white form) Borneo

 ところで、先月にも取り上げましたがBulb. auratumはラテラルセパルが赤、黄及び白色の3系統があります。その中で本種名であるauratumはラテン語の金色(aureum)を意味しており、この種名由来は花の色彩からと思います。本種で不思議なことは、ネットの殆どのサイトで白色系の種には変種等の付帯名がない一方で、黄色系にはflava名が付けられており、Bulb. auratum (fm. / var.) flavaの表記が見られます。flavaはラテン語で黄色です。これでは金色の花とされる本種であるにも拘らず、白色系が一般種で、黄色系はその変種(fmあるいはvar)となります。当サイトでは黄系種は種名由来の金色からaureaを、白系種にはwhite、また赤系種にはpurpureumの付帯名を付けています。白色系種をラテン語ではなく、whiteとしているのは、whiteのラテン語はalbumとなるものの上画像に見られるようにドーサルセパルやリップが白色でないため通称のalbaフォームとは異なり、誤解のないようにする便宜上からです。しかしいずれにしても金色とされるその種名からは黄色系が一般種となり、むしろ白や赤色系こそが変種に位置づけされるべきではと思いますが。

現在開花中のデンドロビウム

 現在開花中のデンドロビウム5種を本日(3日)撮影しました。Den. ramosiiはフィリピン・ルソン島Mountain州およびQuezonがその生息地として知られています。当サイトでの画像下に記載する生息地は、既知の生息地を網羅するのではなく、掲載した花株の生息地となります。表記以外の生息地は画像下の青色種名のリンク先に記載されています。Den. ramosiiのPalawan生息確認(2018年)は当サイトが初と思います。

Dendrobium sanguinolentum Borneo Den. sanguinolentum (form2) Borneo
Dendrobium ramosii Palawan Dendrobium discolor PNG Dendrobium spathilingue Java

Dendrobium polytrichumおよびDendrobium modestumの植替え

 フィリピン低地生息のDen. polytrichumDen. modestumの植替えを行いました。これらは共に葉が円柱形で知られています。相違点は前者はリップ中央弁の縁が長いフリンジ(糸)状の突起があるのに対し、下画像左が示すように後者は皴状であることです。Den. polytrichumは通年で開花しており、現在12株程を栽培していますが、花の見られない月は無いほどいずれかの株で開花があります。一方、Den. modestumは冬期が開花期となっています。これまでこれらの株は木製バスケットでの寄せ植えでしたが今回は小型バスケットにそれぞれ株毎個別に植付けました。

Dendrobium polytrichum Luzon
Dendrobium modestum Polilio

 これらのマーケット情報ですが Den. polytrichumについては、花画像サイトは多数見られます。しかし販売サイトは僅かで、対象となる株サイズとその価格などの条件がいずれも不明確です。一方、Den. modestumは海外に1件見られます。その1件も何故かポルトガルのラン園のようで英語表記が無く、ポルトガル語を自動翻訳しても販売条件(価格対象となる販売株のサイズ:疑似バルブ数や伸長など)が分かりません。さらにDen. modestumは発表が1855年と古いのですが何故かJ. Cootes氏著Philippine Native Orchid Species 2011には本種の掲載がありません。いずれにしてもこうした状況から両種、とりわけDen.modestumは極めて取り扱いの少ない種と思われます。

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