10月
現在開花中の33種(文書内および画像下の青色文字のクリックで詳細情報が得られます。)
Bulb. claptonense Kalimantanは6年ぶりの登場です。入手時、本種の生息標高域が不明で、高温タイプと思い高温室にて栽培を始めたところ高温障害により2年で大半を失いました。下画像は葉付き1バルブとなった状態から中温室にて8バルブまで戻った株の花です。栽培経験から標高800m以上のボルネオ島生息種と推定しています。下画像のBulb. mastersianumは現在29個の葉付きバルブからなる大株で12本の花芽も出ています。開花後に株分けする予定でしたが、本種の黄色フォームは入手難でもあり、大株としての稀少性から株分けは止めることにしました。Bulb. sp aff. uniflorumはBulb. uniflorumとvirescensの中間体のような形状で種名は未確認です。しかしこれだけ目立つ花フォームでもあり既に種名登録されていると思います。
夏期の間、高温室から中温室に退避していたBulb. orthosepalumは今月の10日に高温室に戻しました。画像の花はその2週間後の開花となります。
Bulb. auratumは白、赤、黄系統の多様なカラーフォームがあり、マーケットでの多くはラテラルセパルが細かな斑点のある白色系で、下画像のような赤紫色は多くありません。OrchidRootsのサイトで様々なフォームの画像を見ることができます。当サイトでは白、赤(purpureum)および黄(aureaあるいはflava)系の3フォームを栽培しています。
Bulb. alkmaarenseはマレーシアPutrajaya花展で入手したものですが、本種について不可解なのは、似た種にBulb. xanthoacronがありIOSPEではBulb. alkmaarenseページおよびBulb.xanthoacronページそれぞれに同じ花フォームの種が掲載されていることです。両種の違いはそのリップフォームにあり、Bulb. xanthoacronはリップ中央弁の色から黄色いバルボフィラムと称されるのに対し、Bulb. alkmaarenseのリップは褐色に数本の線状起伏をもつフォームです。このIOSPEの不可解な情報を参照してか、多くのサイトで黄色のリップフォームをもつBulb. xanthoacronが誤ってBulb. alkmaarenseとして扱われています。Bulb. alkmaarenseのリップ中央弁の特徴を示した画像はOrchidRootsのBulb. alkmaarenseサイトで見られます。
Den. sp aff. cymbicallumもPurtrajaya花展で入手したデンドロビウムです。本種をDen. cymbicallumの近縁種としているのは、花の全体像や疑似バルブ形状が似ているものの、Den. cymbicallumはSpur(距)形状が湾曲しているのに対し、本種は直線的に後方に伸びており、またリップ中央弁の外縁が細毛状となっているためです。入手から6年経過しており別種として既に登録されているかも知れません。Den. atjehenseはマーケット情報が国内外共になく、相当入手が困難な種のようです。詳細については画像下の青色種名と共に、こちらのリンク先を参照ください。
Coel. pandulataは今年8月杉板に植替えをした株です。僅か2か月程で開花が始まりました。セロジネと杉板とは相性が良く、現在同時期に植え替えたCoel. bicamerataも開花が始まろうとしています。一方、Cym. aliciaeはクリプトモスミックスで中温室での栽培でしたが、こちらも8月の植替えで、植え込み材をパフィオと同じバークや石類のミックスに替えると共に高温室に移したもので今回の開花はその初花となります。
ドラキュラ属は現在60種以上を栽培しており、年間を通し5-6種が常時開花しています。本種はクールタイプのため国内では専用温室と空冷設備相当が栽培に必要です。環境が整えば2年程で株サイズ(疑似バルブ数)は倍ほどになります。このため当サイトでは従来使用していた円筒形ワイヤーバスケットから4角形のポリエチレンコーティングされたワイヤーバスケットに、疑似バルブが詰まってきた株から適時、株分けと植替えを行っています。
Bulbophyllum medusae Giant
浜松温室では例年10-11月がBulb. medusaeの開花期となります。本種は多数の長く下垂するラテラルセパルで知られた個性あるバルボフィラムで、ネットでも多くの花画像を見ることができます。その特徴とされるセパルの長さについてIOSPEでは、花サイズ(ドーサル及びラテラルセパルを含めた縦幅)を15㎝としています。またWikipediaではラテラルセパルが12㎝との記載ですが、ドーサルセパルは約3㎝であることから全長はISOPEとほぼ同じで、その他のサイトでも15㎝がほぼ上限とされています。
当サイトでは2021年11月の歳月記に本種の花サイズを取り上げ、その中で全長が20㎝ほどの多数の花を掲載しました。一方、花サイズは株の成長度や栽培環境等に大きく影響されることから、栽培株の中から花サイズの最も大きな株を選んで植替えし、そうしたサイズが毎年再現するのかを調べることにしました。3年間での栽培と観察の結果、その株は20㎝を下回ることは一度も無く維持されていることから、その株固有の遺伝的特性を持つのではと思えてきました。次は自家交配を思案しているところです。下画像左と中央は現在開花中の本種で、ドーサルとテラルセパル先端間の全長は25㎝程となります。この長さは15㎝とする多くの公開株サイズの1.6倍となることから、取敢えず本種には”Giant”の添名(愛称)を付けることにしました。
Bulb. medusaeは2つの花フォームがあり、セパル・ペタルの基部に斑点があるものと無地です。当サイトの栽培株は殆どが無地ですが、上画像の花には、ごくわずかに斑点が見られます。またネット検索で全長15㎝を越える画像が他に無いか調べたところOrchidRootsの本種ページの中にラテラルセパルの長い写真(97108)が1点あり、おそらく20㎝を越えると思われます。しかしメジャー等を加えた情報が無く実測値は分かりません。
Bulbophyllum sp aff. quadrangulare (sp23)の植替え
Bulb. quadrangulare近縁種と思われる花株の植替えを行いました。本種については前項でも取り上げましたが種名を調べるため、同じリップ形状をもつBulb. quadrangulareが属すPolymeres節を含め、ニューギニア生息のバルボフィラムをキーワードとして画像検索しました。しかし現時点では同種と思われる花は見当たりません。本種は全開時の花サイズが6㎝と大きく、良く目立つ種にも拘らずネット上に画像が無いことは、Bulb. quadrangulareの新たな亜種や変種あるいは未登録種の可能性も考えられます。
これまで3株の入手株を炭化コルクを支持材として栽培を始め、6年間で下画像中央に見られるように株の50%以上がコルクからはみ出す程の成長となっていました。前項では葉付きバルブ数が全体で70個ほどと記載しましたが、今回の植替えで改めて数え直したところ109個でした。これを13-18個の葉付きバルブに株分けし、それぞれを株サイズに応じて40-60㎝長の杉板7枚に取り付けた様子が右写真です。1-2か月ほどの順化期間を経て出荷となります。今週はベース黄色タイプのBulb. sp aff. quadrangulare (sp32)、またDendrobium polytrichumの植替えも予定しています。
もう一つの高額なバルボフィラム:Bulbophyllum cornu-ovis
ラテラルセパルがビッグホーン羊の角のように後ろに反り曲がっていることからcornu(ツノ)とovis(羊)と命名されたスマトラ島生息で2011年発表のバルボフィラムBulb. cornu-ovisの植替えを行いました。本種は花形状だけでなく、葉の斑点紋様もユニークで、当サイトではマレーシア経由で2015年と2018年に入手しました。久々にIOSPEの本種ページにアクセスしたところ、このサイトとしては珍しい程、情報が少ないままです。一方、マーケット情報の検索ではAndy’s Orchidsが$68.00 (10,000円程)、Elite Orchidsは実生NBSで£44.25 (8,600円程)が見られます。国内での情報は無いようです。
下画像はBulb. cornu-ovisの今回の植替えで花画像を除き撮影は17日です。葉付きバルブ5-7個を1株として、元株3株から株分けし40㎝杉板6枚へ植付けました。本種の詳細情報は画像下の青色種名のクリックで見られます。花サイズはラテラルセパル・スパンが1.5cm - 2㎝で13輪程が同時開花します。
Bulbophyllum quadrangulare近縁2種について
前項で開花中のBulb. sp aff. quadrangulareを掲載しました。当サイトでは下画像の2種類のバルボフィラムを栽培(バルボフィラムインデックスのsp32とsp23)しており、いずれもニューギニア(パプアニューギニアを含む)生息種です。当サイトがこれらをBulb. quadragulareではなく、その近縁種とする理由は、まず花フォームに関して下画像のsp32は、IOSPEの画像種と比較して、ドーサルセパルがラテラルセパルに比べ短形で、また色合いが異なる点です。しかし本種と同じフォームをもつ種がOrchidRootsのBulb. quadragulareページ内に掲載されており、複数あるフォームの一つ(表示画像の右下に極小文字で画像番号があり5557x)として見られます。花色の違いは個体差あるいは地域差の範囲内と考えることもできますが、問題はその花サイズで、sp32の成熟した株の花サイズは下画像中央に見られるように全開時は左右ラテラルセパル間の横幅は5㎝以上であるのに対してIOSPEに記載の花サイズは僅か2㎝とされ、余りに異なっています。この花サイズ2㎝はどの部位の測定値かは不明です。全開した花の横幅とすれば、この差は個体差の範囲を越えています。一方、OrchidRootsでの前記リンク先ページには指先と共に花が撮影された画像があり、花サイズは3㎝程の大きさと推定され、また左右ラテラルセパル間幅が5㎝ほどのメジャー入りの別花(5893x)も見られます。しかしこの別花は、リップ形状を拡大して見るとquadragulareではないように感じます
さらに当サイトの下画像種sp23は、花のベース色は白色で上画像種の黄色とは異なります。このため上画像種とは別種と考えられるものの、quadrangulareの特徴である独特なリップ形状はsp32と共に同型です。また花サイズは6㎝を超え、バルボフィラムとしては大型の花で、IOSPEの花サイズ2㎝とされるquadrangulareとは相容れません。そこでquadrangulareのPolymeres節で白色ベースの下画像種に類似する花フォームがないか検索したものの現時点でネット上には見当たらず、未登録種の可能性もあります。しかしこれほど大きく見栄えのする花にも拘らず、これまで登録されていないとも思えません。
上画像の2種は2018年マレーシアPutrajaya花展会場において、パプアニューギニア生息の種名不詳種としてそれぞれを3株入手したもので、1株サイズは葉付き3-4バルブでした。6年間の炭化コルクでの栽培により現在、sp32が葉付きバルブ50個に、またsp23は
70個ほどとなったため、1株当たり葉付きバルブ5-10個にそれぞれ株分けし40㎝長の杉板に植付け、来月から分譲予定です。いずれも両種は栽培結果から低地生息の高温タイプと思われ、今年の猛暑を高温室で落葉も無く乗り越えました。ちなみに種名quadrangulareの頭文字quadは数値の”4”を意味し、バルブ形状が4面体(4角錐)であることからの由来とされます。上右画像に見られるようにsp32は多数の凹凸をもつバルブ形状、またsp23は4角錐です。
現時点のBulb. quadrangulareのマーケット情報を種名と価格で検索したところ、国内には見当たらず、海外ではTropicalExotiqueのPlant List(2024 August)で3-4バルブ株がUS$65.00(9,700円)とバルボフィラムとしてはBulb. kubahense並みの可なり高価な種になっています。果たしてこのサプライヤーの株の花サイズはどれほどのものか興味のあるところです。 既知の種だけでなく種名不詳種を含めてバルボフィラムを栽培していると、しばしばこうした種の同定問題に遭遇します。
(追記)
20日、開花中のsp32(黄色ベース)を撮影しました。花サイズは左右ラテラル・セパル間のNS(自然体)幅で6㎝あり、当サイトでのこれまでの本種としては最も大きなサイズとなりました。左画像には現在4つの蕾が見られ、これらが同時開花しましたら再度画像を更新します。
|
|
Bulbophyllum sp aff. quadrangulare (sp32) |
現在開花中のバルボフィラム3種
現在(13日)開花中のバルボフィラム3種を撮影しました。
セロジネの杉板への植付け
最近では、ほぼすべてのバルボフィラム、下垂タイプのデンドロビウム、セロジネなどの新たな取付材は、杉皮や杉板に移りつつあります。植替えの際、4年以上経った炭化コルクであれば指先でぼろぼろとコルクを崩すことができ、根の取外しが容易ですが、3年以内の交換ではコルクが固く、内部の根の取り剥しは大変で、栽培株が多くなるとこの作業に手間が掛かり過ぎるのがその理由です。こうしたことから当サイトでは7月からは植替えに炭化コルクを全く使用しておらず、現在は杉板(杉皮に反りを押さえる基材を組み合わせた支持材も含む)か木製バスケットとなっています。下画像中央のそれぞれは今年8月、それまでの炭化コルクから杉板に植え付け、本ページに掲載したCoel. bicamerataとCoel. pandurataで、右は2か月後の現在の新芽の発生と成長です。これまでの栽培経験からセロジネと杉材は中・高温タイプ共に相性が良く、現在はセロジネの新たな植付け材は殆どが杉材となっています。
現在開花中の14種
気温がようやく下がり始め、1日の気温差が大きくなるとランの動きが活発になります。例年とは1か月程遅い秋ですが、当サイトでは初秋には初春と共に病害虫防除処理を行います。また今年の猛暑による高温障害で葉先枯れや落葉が目立つ株は、根のダメージも考えられ植替えも必要となります。
下画像でBulb. sp aff. ocellatumは花の印象が一見、Bulb. pardalotumに似ていますがリップ側弁形状はocellatumに近く、当サイトではsp aff. ocellatumとしています。このフォームは入手から8年程経ちますが、10株程のロットごと全ての株でその黄金色やセパル・ペタル上の線や点状斑紋に変化は無く、Bulb. ocellatumやpardalotumとは異なる種と思われます。現在ネット上では当サイト以外、同一種と思われる花画像は見当たりません。この種名の経緯は 2021年7月の歳月記に記載しています。
Bulb. hampeliaeは昨年8月が初花で、今年は6、8月そして今月と、2か月おきにそれぞれ別株ですが開花を続けています。一方、Den. serratilabiumは例年この時期が開花期となります。本種は多様な花模様があり、それぞれのフォームは2019年10月に記載しました。中でもflavaフォームは現在当サイトのみのようです。このflavaフォームは 20株程の本種の入荷の中に1株混在していました。Den. amboinenseは2022年に杉板に取り付けた株です。
Den. albayenseは、前属名はAporumでしたがデンドロビウム属に統合されました。本種の花サイズは7㎜と小型で、意識して見なければまず気付きません。こうした小さな花にも色違いが見られ、画像下の種名リンク先に3タイプを掲載しました。下画像はPalawanからの株花です。
Bulbophyllum williamsiiの植替え
Bulb. williamsiiはミンダナオ島生息のフィリピン固有種で、当サイトでは2015年と16年に20株程を入手しました。J. Cootes著Philippine Native Orchid Species 2011によると本種の生息地はこれまでミンダナオ島北部スリガオ標高1,000mのみの記録とされています。その一方で現地ラン園からの情報によれば生息域が焼畑耕作による荒廃により2016年以降、本種の入手は困難な状況になっているとのことでした。スリガオはその面積の多くは低地であることから1,000mともなれば、生息範囲はごく限られており、この地域ではすでに絶滅した可能性があります。ネットでのマーケット情報(種名とfor saleやpriceで)検索すると、海外では幾つかのサイトが見られます。しかし販売対象となる株、花、また価格など全体が分かる具体的なサイトは見当たりません。国内では2件のサプライヤーによるオークションサイトがあります。その内の1件では本種の花サイズは極小型とされています。なぜバルボフィラムとしては大きな花サイズとなる5㎝(縦)x2.5㎝(横)が極小なのか、またほっといてもバンバン増えポンポン咲くとの説明ですが、サイトの掲載画像は株のみで花が無く、その株も先端のバルブを含め半数のバルブが落葉しています。本種は標高1,000m生息の中温タイプであり、当サイトの栽培経験では夏期の高温下に置けば、葉が開く前の新芽は高温障害で殆どが枯れてしまいます。他方のオークションサイトでは花画像はあるものの、葉やリゾーム等が背景に含まれていれば花サイズが推定できるのですが花のみの画像のため分かりません。驚くことはその価格で、入手難な本種が葉付き5バルブで1,200円です。
下画像は今回植替えを行ったBulb. williamsiiです。入手から9年程経ち、現在までに3回の植替えを行いました。今回の植替え前は炭化コルク植付けで12株あり、葉付きバルブは1株当たり5-12個程で、この時の画像を2019年11月の歳月記に掲載しました。それから4年半、中温室にて栽培を続け 多数のバルブが空中に伸び出していたため、今回は全て60㎝x15㎝の杉板に取り付けることにしました。それぞれ葉付きバルブ数は20-25個となっています。本種はリゾームが直進する特性があり取付は比較的容易です。下画像は中央が杉板14枚中の10枚の植替え後の様子です。右はその内の1枚の拡大画像となります。今回の60㎝長杉板の伸びしろ空間は、これまでの株がすでに大きくなっていて狭く、恐らく2年もすると杉板を越えてしまいます。この対策として40cm程に切断した杉板とこれらをそれぞれ金具で接続し全長を1mに拡張することで株を板から離すことなくミズゴケの交換・追加のみで対応する予定です。
当サイトでは本種の近縁種と思われる種名不詳種を2種栽培しています。大きな違いはラテラルセパルが本種の1/2サイズ以下であることと、リップ形状が異なります。またこれらはミンダナオ島からではなくルソン島中 - 北部からの入荷種であり、ルソン島北部生息のBulb. bolsteriの近縁種Bulb. bolsteri aff1及びBulb. bolsteri aff2としてバルボフィラムページに掲載しています。これらaff種をBulb. williamsii画像に混在させている海外サイトも見られますが、これは誤りと考えています。本種を入手する場合にはその生息地あるいは野生か実生か、更に入手株自体の花とサイズを事前に確認することが必須となります。
|
|
|
|
Bulb. williamsii |
Bulb. bolsteri |
Bulb. sp aff. bolsteri 1 |
Bulb. sp aff. bolsteri 2 |