9月
現在(29日)開花中の6種
Aerides magnificaは例年この時期に開花しています。本種はそれまでのAerides quinquevulneraiグループから2014年に別種として新たに登録されました。しかし現在、生息地Calayan諸島ではほぼ絶滅状態にあり、マーケットでの本種は実生と云われています。当サイトの本種は全て野生栽培株で、albaフォームはその多くがspur(距)先端部が薄い緑色(farmeriフォーム)であるのに対し、下画像種は花全体が白色です。Cym. aliciaeは現在30株程を栽培しており、先月の歳月記にて植替えを報告しました。本種の生息域は標高300m - 2,700mと広いものの、当サイトの栽培株は今年の猛暑(温室内夜間平均温度30℃が2か月以上続く)を乗り越え開花しており、500m以下の低地生息種と思われます。マーケット情報は国内外共に少なく国内では1件、8,000円以上の価格が見られます。下段右のBulb. isabellinumは2018年発表のボルネオ島Kalimantan低地生息の新種で、当サイトではその発表の2年前の2016年にKalimantanではなくSarawak種として入手し、翌年東京ドームラン展に出品しました。今回撮影した下画像6種は全て高温室にての栽培となります。
現在(28日)開花中のバルボフィラム3種
Bulb. refractilingueはしばしば葉や花形状また低地での生息域等からBulb. kubahenseとの類似性が語られます。栽培において両者の違いは輝度で、Bulb. refractilingueは高輝度に対してBulb. kubahenseは低輝度を好みます。Bulb. freitagiiはペタルとリップ(Labellum)形状に特徴があり、2019年記録された直近の新種で、栽培やマーケット情報は国内外共にほとんどありません。当サイトが本種を入手したのは記録された2年前の2016年にBulb. contortisepalumの redフォームを注文した入荷株に偶然入っていたもので、本種名を指定して得たものではありません。花の無い株からはBulb. contortisepalumとの違い、また花を見ても1m以上離れた位置からはリップ形状の識別が困難なことから、供給元が本種を認識しての出荷が出来るのかミスラベルの可能性が高い種と思います。Bulb. scaphioglossumは2014年の発表されたこちらも新種のバルボフィラムで、当サイトの入手は2016年でした。画像下の青色種名のクリックで見られますが中温室の栽培で大株に育っています。
現在(24日)中温室にて開花中のデンドロビウム5種
スラウェシ島北部Klabat山を種名由来とするDen. klabatenseについて、IOSPEではその生息域を標高500m-1,100mとし、栽培環境はWarm(18-23℃)からCool(14-18℃)としています。()内の数値は夜間平均温度です。スラウェシ島の気象データによればKlabat山周辺の低地での年間平均気温は30℃程であるものの、標高500mの平均気温は24℃、1,000mで23℃程とされ、栽培に用いる夜間平均温度で捉えれば、この値よりも若干低いと考えられます。このことからKlabat山間部で500m以上の生息域となれば本種はHot(23-29℃)タイプには属しません。しかしスラウェシ島北部は赤道間近でもあり標高500m程であれば高温環境での栽培が可能と見做し、本種は高温環境でも育つと記載したサイトが見られます。当サイトの10年間に及ぶ20株程の栽培経験からは、本種は高温(IOSPEのHot相当)環境では育ちません。これは下画像全種が同じです。ここで”育つ”とは、株が成長し開花が毎年見られる様態を意味します。こうした実態からIOSPEが本種生息域を500mとしながらも、生息域をWarmからCoolタイプとした記載は正しいと考えています。一方でIOSPEには本種の花サイズを2.5㎝とする記載も見られます。当サイトでのこれまでの観測では、左右ラテラルセパル間の幅は、NS(自然体)で4cmから5㎝(歳月記2020年10月及び画像下の青色種名の詳細情報を参照)で、2.5㎝程の小さな花はこれまで一度も見たことがありません。ちなみに現在開花中の下画像前面の花サイズは4.3cmです。2倍近い差ともなると個体差の範囲を越えています。このように同一種であってもそれぞれには適応環境と個性があり、Ex-Situ(生息域外)栽培ではあるものの、実態と既知情報との相違点を見出すことも栽培者ならばこそ得られる面白さと思います。
Dendrobium cinereumとDendrobium corallorhizon の植替え
ランに関する書籍を整理していたところ、H. P. Wood著The Dendrobiums 2006の表紙の花写真に目が留まり、通常は表紙裏にその種名が小文字で表記されているのですが記載が無く、その花はボルネオ島生息のDendrobium cinereum (Syn: derryi)と判断しました。このデンドロビウムは当サイトでも現在栽培しており、またこの書末尾の花写真を含めると900ページを越えるハードカバーの、片手では重くて持てないほどの大作の表紙を飾る種となれば、この機にとネットで本種の情報を調べることにしました。しかし花画像は多数見られるもののマーケット情報は国内外共に見当たりません。そこで現在入手が難しい種の可能性も考えられ、早速吊り下げ株に囲まれ薄暗いベンチの片隅に置かれていた本種と、中温室にて栽培をしている花形状の似たDen. Corallorhizonと共に植替えを行うことにしました。Den. Corallorhizonもまた入手が難しいのかマーケット情報は見当たりません。
下画像はそれぞれの花と今回の植替え後の株の様子です。これまでは5年間ほどDen. cinereumは一つのバスケットに、またDen. corallorhizonは6個のプラスチック・ポットでの栽培でしたが、今回はそれぞれを株分けと寄せ植えで、大型木製バスケット3個への植付けとしました。
Dendrobium maraiparenseの植替え
ボルネオ島Kinabalu山北西部標高1,200に生息するDen. maraiparenseの植替えを行いました。本種の入手は2017年6月で、しばらくはクリプトモスミックスのポットと、炭化コルクでの植付けでしたがポットでの成長が今一つであったため、5年ほど前から全て炭化コルクとし中温室での栽培を続けてきました。例年3-4月に開花が見られます。
本種の現在のマーケット情報をネットで検索したところ国内で1件のみ、海外では何故か販売サイトが見当たりません。本種は疑似バルブが70-80㎝と比較的長く、且つ低 - 中温環境での栽培が必要であることが背景にあるのかも知れません。一方、著作物やネット上に公開の生息域情報は多くは暫定的で、その後の新たな生息域の発見もあり、
そこで今回はバルブが長くとも株全体が纏まった植付けが出来、持運びが容易なバスケット植えとし、高温室を含め2-3か所に分散して成長を観察する予定です。下画像左は本種の16日植替え後の様子で、花画像は当サイトで栽培している本種と同じDistichophyllum節の花形状が類似する本種を含む9種です。これら類似種の詳細情報はデンドロビウム・インデックスの画像のクリックで見ることができます。
12-14日撮影の6種
今回は現在開花中の種の中から比較的近年に記録された種と、同定が難しい種をそれぞれ選んで撮影しました。Bulb. kubahenseは2011年に記録されたバルボフィラムです。当サイトでは2014年初頭に現地マレーシアにて本種を入手し、2015年の東京ドームらん展に出品、その時の価格が3,000円/葉でした。本種の最花期は例年6月頃ですが、晩夏の開花も時折見られます。Den. lawesii white (alba)は、一般種では花色がDen. subclausumに見られるような2色カラーであるのに対して、花柄やSpurが薄いピンクのフォーム(semi-alba)もあるものの花柄を含めセパル・ペタル及びリップが全て白色は、マーケット情報が少なく希少性が高いと思います。一方、Den. sulawesienseはDen. glomeratumとはシノニム(同種異名)とされます。下段左のボルネオ島生息のDen. jiewhoeiは2008年の記録(J. Wood)で、ボルネオ島やミャンマー生息のDen. calcariferum 1935年(G.Bull)とシノニムの関係にあります。
Den. roslii はマレーシアTerengganu州中部(Hulu Dungun)の限られた地域の生息として2010年(P. Byrne)に記録されましたが、その僅か1年前に記録されているDen. terengganuensis 2009年(Rosli)とはシノニムとされます。生息域が同じマレー半島で同種となる直近のDen. roslii名がなぜ登録できたのかが不可解です。下段右画像のDen. wattiiはその花形状がIOSPEの花画像と異なっており、本種の同定の経緯は当サイト2017年2月の歳月記に記載しています。それぞれの種の詳細画像は青色種名のクリックで見ることができます。
こうした多数のシノニムの存在は、その後の属名の統一や属種の一元的な画像管理が困難であった時代的背景によるものと思います。
8-9日撮影の6種
熱帯夜が続いていますが朝方の気温は下がり始めており、やや温室のランも落ち着いてきたように見えます。昔から残暑もお彼岸までと云われてきましたがその気配は全く無く、この時期に例年開花する多くの属種は1か月ほどの遅れとなりそうです。そうした中、今週開花した6種を撮影しました。
上段左のBulb. recurvilabreはラテラルセパルのベースが黄と橙色系があり、現在開花中の株は後者となっています。Bulb. amboinenseの開花期は春と秋となります。一方、画像右のDen. lancifoliumですが、IOSPEの画像と比較すると花フォームや特に疑似バルブの形状が下画像種と比べ異なっており、これらは別種ではないかと思われます。下画像種に似たDen. lancifoliumの花やバルブ画像はiNaturalistサイトで見られます。当サイトの本種詳細情報は画像下の青色種名のリンク先となります。Den. cuneilabrumは6月の歳月記にて8年ぶりの開花として報告しましたが、その後1か月ほどの間をおいて開花を続けています。中温室にての栽培のため自然界における開花期は不明ですが、本種の開花環境がようやく分かってきたところです。Den. polytrichumは温室栽培のためか四季に関係なく通年で、2-3か月の間隔で開花しています。
昼間35℃を越える高温室にて現在開花中の6種III
当サイトでは9月から年末頃までがDen. sanguinolentumの開花期となります。花柄が多様で、当サイトでは大別して3フォームに分けています。下画像上段中央はボルネオ島、スマトラ島、タイなど広く分布するフォームである一方、セパル・ペタルが白色に近いクリーム色の左画像は他と比べ別種のような印象ですがボルネオ島Sabah生息種とされています。Den. tentaculatumは1株に18輪が同時開花した画像を青色種名のリンク先に追加しました。Den. elianaeと同じく本種は短命花で年に2ー3回開花し、9-10月が最花期となります。
昼間35℃を越える高温室にて現在開花中の3種II
高温室にて4日と本日(5日)撮影のデンドロビウム3種です。Den. calicopisは2018年8月のマレーシアPutrajaya花展にて入手したデンドロビウムです。一方、Den. cymboglossumは花フォームが多様で、中央と右のそれぞれの花株は2017年マレーシアにて入手したものです。10株程の株の中に中央の一般フォームや右のflava (alba?)フォームが混在していることは開花後、偶然に分かったことで右の花株は3株含まれていました。これらの花色は環境の違いによる変化は見られず、株固有の継承性のあるフォームとなっています。
昼間35℃を越える高温室にて現在開花中の6種
現在、高温室にて開花中の6種を選んで撮影しました。下画像上段左のBulb. cleistogamumはボルネオ、マレー半島、スマトラ島、フィリピンなどに生息し自家交配をする珍しいバルボフィラムです。一般種は5-6本の赤い線がセパル・ペタルの基部から先端近くに伸びていますが、画像の花は基部寄りに短く、全体としてアイボリーのベース色が目立つ個性のあるフォームのため撮影しました。Den. sanguinolentumはこれから年末までが最開花期となります。Den. punbatuenseは多数の類似種があり、当サイトでは5つの異なるフォームをデンドロビウムのページに掲載しています。
9月に入り徐々に気温が下がってきますが、さて今期の長期に渡る異常な高温気象がどれほどランに影響を与えたかは、葉先枯れやこれから始まる落葉の量でその程度が分かることになります。落葉が例年に比べかなり多いようであれば、多くの根はすでに高温障害を受けていると考えられます。傷んだ葉や根の回復は出来ないため株の再生には新たな葉や根の発生が必要となり、それを即すには新しい植込み材による植替えが早期に必要になると思います。